TPPで日本は世界有数の茶所になれるのか? --- 玉木 雄一郎

TPPが大筋合意に至ったことを受け、11月10日に一日だけ開催された衆議院予算委員会で質問に立ちました。

最初に、日本茶の輸出について総理に聞いてみました。というのも、安倍総理は大筋合意直後の10月6日の記者会見で、次のように語ったからです。

「日本茶にかかる20%もの関税がゼロになる。静岡や鹿児島が世界有数の茶所とされる日も近いかもしれません」

関税が撤廃されればいかにも輸出が増えそうに感じます。確かに今、日本茶の輸出は増えています。しかも、TPP交渉参加国であるアメリカやシンガポールが主要な輸出先になっているので、私も一瞬、期待しました。

しかし、ちょっと調べてみて、その期待は急速にしぼみました。

というのも、アメリカ(第1位)、シンガポール(第3位)、そしてカナダ(第5位)の日本茶に対する関税率は、すでにゼロだからです。すでにゼロ。
tamaki
これには、思わずのけぞってしまいました。

では、総理が発言した20%もの関税をかけている国はいったいどこなのか。聞いてみると、それはメキシコでした。

そこで、いったいメキシコに対して日本茶がどれだけ輸出されているのか調べてみたところ174万円。億円ではありません。174万円です。

約車1台分。輸出全体に占める割合は、たった0.03%です。

そこで、総理に改めて聞きました。

どうしてメキシコがかけている20%の日本茶の関税が撤廃されれば、「静岡や鹿児島が世界有数の茶所とされる日も近い」のかと。

その因果関係を答えてくださいと。

総理は、答えられませんでした。当たり前です。因果関係などないのですから。

いつものことですが、総理の言葉には飛躍や誇張が多々見受けられます。

確かに関税の削減や撤廃は、輸出を増やす要素の一つでしょう。しかし、具体的にどの国の関税が具対的にどの程度撤廃されるのかを客観的に分析しないで、軽々に「TPPは国民の生活を豊かにしてくれます」などと言い切れないはずです。

ちなみに、お茶の輸出を増やすためには、関税よりも、各国で異なる農薬の残留基準の統一が重要です。しかし、今回のTPP交渉で、こうしたルールの統一は図られていません。

香川県は、国分寺や鬼無は盆栽の産地で、盆栽の海外輸出も近年伸びていますが、人気の高いクロマツについては、植物検疫がネックになって輸出ができないのです。こうした問題についても、TPPで解決できていません。

私が言いたいのは、単にTPPに合意したからといって、それだけで日本人の生活が良くなるわけではないということです。

農村地帯についていえば、農産物の関税の大幅削減やルールの見直しによって、マイナス面が大きいと思われます。

だからこそ、政府はまず、いい面も悪い面も含めて合意内容の全容を明らかにし、そして、その経済的な影響を「定量的に」分析して国民に示すべきです。定性的な説明や、ましてやイメージを語るだけで“お茶”を濁すべきではありません。

農業への対策についても、そうした定量的な分析に基づいて行わなければ、単なるバラマキになってしまいます。政府によれば、経済分析はTPP対策を発表した後に出すそうですが、順序が逆です。

効果的な対策を講じるためにも、合意内容の確認、分析を徹底して行い、それを公開してひろく国民的議論を行ってから決めるべきです。

まだテキスト全文の日本語訳さえできていないのでは話になりません。

そもそも、国会決議違反かどうかを判断するためには、与党の議員の皆さんも、もっと情報が必要なはずです。あれほどTPP反対を訴えて選挙をしたはずなのに、どうして黙っているのでしょうか。
tamaki2
官邸の言いなりになるしかない与党議員に期待できない以上、私たちががんばるしかありません。

早く臨時国会を開いてもらいたい。聞きたいことがいっぱいあります。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2015年11月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。