シェフル・UNHCR報道官に聞く --- 長谷川 良

2015年12月10日 09:00

2015年は難民が欧州に殺到した年として記憶されるだろう。12月現在、欧州に殺到した難民総数は90万人を超え、大台100万人に迫っている。欧州連合(EU)28カ国の加盟国は押し寄せてくる難民の受け入れに苦慮し、受け入れに批判的な国は鉄条網を設置し、難民の入国阻止に乗り出している。そこで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ウィーン事務所のルート・シェフル報道官に今年1年の難民問題の総括と今後の見通しについて聞いた。以下、一問一答だ。
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▲インタビューに応じるルート・シェフル報道官(2015年12月7日、UNHCR事務所で撮影)

――2015年は北アフリカ・中東諸国から多数の難民が欧州に殺到した年となった。
「UNHCRによれば、世界で約6000万人が故郷を追われ、難民生活を余儀なくされている。欧州では今年1年、約90万人が殺到した。大多数の難民は先ずギリシャに入り、バルカン・ルートでドイツなどに移動している。難民収容先としては、トルコで200万人以上、ヨルダンで約60万人、そしてレバノンで100万人以上だ。考えてほしい、あの小国レバノンで欧州全体より多い難民が収容されているのだ。難民の出身国としては、シリア、アフガニスタン、そしてイラクが上位3国。いずれも内戦が支配している国だ」

――なぜ、多数の難民が今年、欧州に殺到してきたのか。

「様々な理由が考えられる。われわれは昨年、シリアから難民の急増を既に目撃してきた。シリア内戦は5年目に入った。多くのシリア国民は内戦勃発後、数年間でこれまでの蓄えをほぼ使い尽くし、備蓄がなくなってきた。そこで故郷を捨てて安全な国に逃げていく。しかし、隣国のヨルダンやレバノンは小国だ。難民を収容できる資金がない。だから、シリア難民は欧州に向かう。多くはギリシャのレスボス島に移動した。もう一つの理由は、欧州で安全に生活できる可能性があると考えたシリア難民が動き出したのだ」

――メルケル独首相が8月末、「ダブリン条項を暫定的に停止し、紛争下にあるシリアから逃げてきた難民を受け入れる」と発言したことが、難民の欧州殺到を引き起こす切っ掛けとなったという分析がある。

「メルケル首相の発言がシリア難民をドイツに殺到させた要因となったことは間違いないが、同発言は多くの要因の一つに過ぎない。メルケル首相の発言前に、多くのシリア難民がハンガリーのブタペストの駅前に集まっていた。メルケル首相の発言は難民のドイツ行きのトレンドを加速させたが、繰り返すが、決して唯一の要因ではない」

――ジュネーブ難民条項によれば、政治的、宗教的、民族的理由で母国を追われた人を難民と明記しているが、欧州に殺到してきた難民の中には経済難民が少なくなかったのではないか。

「厳密には個々のケースを審査しなければ言えない。先述したように、難民の多い3国、シリア、アフガン、イラクは紛争状況下にある。彼らは欧州に入った難民の80%に該当する。その他、イタリアにはエリトリア、ソマリアから難民が殺到した。UNHCRの観点からいえば、彼らはジュネーブ難民条項に合致する。もちろん、難民の中には経済的理由から逃げてきた者もいるが、大多数は紛争地から逃げてきた難民だ」

――欧州ではアフガン難民はもはや収容しないという声が高まっている。なぜなら、シリアやイラクとは違い、アフガンでは国民は居住できるからだ。

「例えば、オーストリアでは多数のアフガン難民がジュネーブ難民条項に合致する難民と認知されている。アフガンの少数民族出身者やタリバンの支配地域出身の難民は認知される。また、アフガンではイスラム教スンニ派過激組織『イスラム国』の影響が強まってきているのだ。また、アフガンからの難民にはイスラム教の少数宗派シーア派出身者がいる。UNHCRは最新の『アフガン報告書』をまとめている最中だが、アフガンの治安状況は残念ながら悪化している」

――「パリ同時テロ」事件後、テロ実行犯の中には難民を装ってバルカン・ルートから欧州入りした者がいたことが判明した。

「もちろん、難民の中にはさまざまな人間がいる。しかし、数人のテロリストゆえに難民全体を懐疑的に受け取ることには警告を発したい。難民受入れで欧州社会を分裂させてはならない。われわれは多くの難民と会って話したが、彼らは本当に窮地に立っている。安全という観点からいえば、重要な点は難民がイタリアやギリシャに到着した段階で審査を実施し、難民がどのような人間かを掌握すべきだ。UNHCRは当初から主張してきたことだ。そうすれば、バルカン・ルートで難民が長い道を苦労して彷徨うこともなくなるはずだ」

――EUはトルコ政府と連携して難民審査センターを設置し、殺到する難民を抑制することで合意したばかりだ。

「まだ詳細な内容を聞いていないので評価できない。われわれの立場から言えば、トルコだけではなく、ヨルダン、レバノンに収容されている難民への支援強化が大切だ。また、難民が地中海を危険を冒してボートに乗り欧州入りしなくてもいいように対策を取るべきだ」

――ところで、EU28カ国中、難民の受け入れを実施している国はドイツ、オーストリアなど5カ国に過ぎない。メルケル首相が主張すル難民の公平な分配は空言葉で終わっている。

「EU加盟国の連帯感の欠如を感じている。EUが難民に対する原則で合意することを願うだけだ。単にアピールではなく、求められているのはEU加盟国の連帯だ」

――欧州では殺到する難民の支援のために、非政府機関(NGO)ばかりか、多くの国民が支援活動をしてきた。彼らの動機は人道主義であり、難民への隣人愛、寛容がその根底にあるが、難民の殺到が絶えないことから、欧州の国民の間にも支援疲れが見えだした。 

「オーストリアの場合、政府や国民の間には難民支援への熱意は消えていない。もちろん、隣人愛、他民族への寛容だけでは難民問題は解決できない。EUの総人口は約5億人だ。そこに100万人の難民が殺到したとしても、各国で公平に分配すれば、その負担は微々たるものだ。難民問題が大きな負担とはならないはずだ」

――難民の分配問題だが、難民には居住国を選ぶ権利があるか、それとも収容国が難民を選び、有資格者、高等教育修了者の難民を優先的に受け入れ、自国の労働力不足を解決する権利があるのか。

「家族が欧州で既に住んでいる難民の場合、家族が住んでいる国に優先的に収容することはある。また、フランス語が堪能な難民の場合、フランスは容易に収容できるといった具合だ。EU側が独自の条件を掲げるかもしれないが、UNHCRは特定のクリテリアを持っていない」

――欧州の殺到する難民の大多数はイスラム教徒だ。もちろん、敬虔な信者から世俗化した信者まで多様だと思うが、彼らはイスラム教圏からの出身者だ。一方、難民を受け入れる欧州は主にキリスト教社会だ。イスラム教徒出身者の難民の受け入れ先として欧州社会は理想だろうか。

「UNHCRは意図的に古典的な宗教紛争、文化衝突を扇動しているわけではない。われわれとしては難民の統合問題を促進させることが重要だ。難民の中でも教育を受けてきた難民は他文化社会でも、そうではなかった者より容易に統合できる。統合の成否は教育にあると信じる。宗教の相違ではない。統合がうまくいけば、就業の道が開く。だから、難民受け入れ国は統合政策に力を投資すべきだ。例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992~95年)では多くのボスニア国民がオーストリアに逃げてきた。彼らの多くは高等教育を受けた難民たちだった。彼らの多くは文化は異なるがオーストリア社会に統合し、国籍を得、成功を収めている者が少なくない。宗教の違いが問題ではなく、教育と統合への意思だ」

――難民問題が大きなテーマとなって以来、欧州各地で実施された選挙では民族主義的な政党、極右政党が得票率を伸ばしている。オーストリアでもウィーン市議会を含む2州の議会選でいずれも極右政党「自由党」が大飛躍した。フランスでも同様の傾向が見られたばかりだ。オーストリアの場合、過半数の国民が難民受け入れに批判的となってきている。民主主義国家は多数決原則だ。多数派が難民受け入れを拒否しているのにも関わらず、難民受け入れを続けることは、民主主義の原則に反しないだろうか。極右政党の躍進もその点があるのではないか。

「社会の多数派が少数派を無視し、全てを決定できるか、という別の問題が出てくる。問題は難民にあるのではなく、難民問題で一体化できず、分裂するEU側にある。テレビで連日、数千人の難民が列を連ねて国境にいるのを観る国民には不安が生まれてくるのは理解できる。世界では域内難民を含め6000万人の難民がいる。世界的視点からいえば、欧州に殺到する難民の数は非常に少ないのだ。欧州は連帯して難民問題の解決を見つけ出すべきだ」


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年12月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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