東芝よ、何処に行く?

岡本 裕明

80年代は電機メーカーが花形産業でありました。部品メーカーから完成品メーカーまで株価はうなぎのぼりで鼻息は荒かったのですが、90年代からその行方に暗雲が垂れ込めてきました。テレビもそうでしたがどちらかというと携帯電話での海外戦略失敗あたりからつまづきが目立ち始めた気がします。

北米で日本の電機メーカーの存在感が下がっていき、家電量販店では日本製品が他国の製品と差別化できず、価格競争に突入していき、敗退が続いて行きました。技術やノウハウが外国に流出していたこと、製造コストの差異、更にはマーケティング力に於いて日本がバブル崩壊で金融機関の「本国回帰政策」の大号令で海外でのそれまでの足掛かりを失ったハンディキャップは非常に大きなものでありました。

その為多くの電機メーカーは生き残りをかけて熾烈な運命を辿りました。派手な赤字計上も今や驚きもしないわけです。シャープ、ソニー、パナソニックが揃って多額の赤字を計上した際、V字回復はさも当たり前の期待でありましたが、実際にそれが達成できたのはパナソニックだけでソニーは構造改革に時間を要しました。シャープに於いては先日、日経に「冬を越せるのか」と書かれてしまい、その存亡の危機にあると言ってよいでしょう。

そんな中、東芝がいよいよ大ナタを振るうことになりました。一部報道で5000億円規模の赤字計上とされ、相当思い切ったものになりそうな気配です。その中心が同社のライフスタイル部門であります。いわゆるパソコン、テレビなどの家電部門でありますが、9月の上半期連結決算で見ると同部門は4300億円強の売り上げで全体の14%を占めています。問題はその営業赤字幅で420億円と売り上げの1割近い赤字を記録しているのです。基本的に存続価値がないと判断されても仕方がないでしょう。ちなみに15年3月期もライフスタイルセグメントは売上1兆1600億円強に対して営業赤字は1097億円と赤字幅は9.5%に及びます。

私も規模こそまるで違いますが、6部門のビジネスをしている中で管理の仕方とは営業成績の推移と将来性であります。今赤字でも将来伸びる部門なら赤字は許容できますが、明白な改善プランが必要です。それは小さい会社だからこそセンシティブに対応しなくてはいけないともいえます。

東芝の悪い癖とは企業の肥大化と「売上高至上主義」の傾向がなかったかどうか、であります。退任した3人の社長のプライドとその姿勢からは空気を膨らませて大きく見せることはあっても小さくすることは選択肢にない点であります。これが東芝の根本的敗因の一つです。また、同社の家電と重電を両取りする姿勢にも問題があったでしょう。「サザエさん」「日曜劇場」のスポンサーとしてそのイメージは家電にも強かったのですが、案外東芝のテレビのブランドってなんだっけという中途半端な戦略であったことは否めません。(「レグザ」は濁音が二音続くネーミングミスもあります。)

相当前に分社化して家電と重電を切り分けて進む対策があったと思うのですが、上述の売上高至上主義はこれを許さなかったのでしょう。持ち株会社でそれぞれをぶら下げるという手もあったと思いますが。

では東芝にV字回復はあるのか、ですが、それは同社の解説を聞いてみたいと思っています。セグメントで25%を占める電子ディバイス部門が稼ぎ頭ですが、ここは市況に左右されます。これはシャープと同様最も熾烈な戦いを要求されるところであり、企業戦略としてはここがどうなっても東芝の屋台骨が崩れないようもう一つの主要セグメントである電力社会インフラ部門を絶対的強化する必要があります。が、ここに埋もれているウエスチングハウスののれん問題は今回の5000億円損失計上には含まれない方針とされます。これは問題を先送りしたソニー型の構造改革に似たものになる様な気がします。

本当の膿を出し切るにはまだ相当時間がかかりそうです。同社はそれぐらいいろいろなものを抱えています。東電向けスマートメーターの問題もありますし、コミュニティソリューション部門の赤字も気になります。東芝テックの切り離しにもかかわるのかもしれません。

長く北米にいて企業戦略とは何かと言えばスクラップアンドビルトではないかと思うのです。将来性のない部門はさっさと売却し、それに見合う部門を育てる(インキュベーション)ないし、買収する激しさです。時代の変化が激しく、インキュベーションは大企業文化では生まれにくいとすればおのずと戦略は絞られてくるでしょう。

要は同社のブラッドが変われるか、それにかかっていると思います。メーカーではなく、クリエーターになれるかです。それは経営陣のみならず同社の社員一人ひとりの課題になるはずです。再生の道は茨だと思いますが、良いものを持っている会社ですから将来を期待したいと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 12月21日付より