食べ物の価値観

2015年12月26日 11:58

海外旅行をして何が楽しいかといえばその国の食べ物に出会うことでしょうか?その風土や歴史に裏打ちされた食事は思わず「すごい!」とか「旨い!」と言葉を発してしまうこともあります。

そんな各国料理も最近は人の移動が増え、何処の街にも○○料理という看板を掲げた店が急増しています。ここカナダは移民の国ですから当然にして様々な味を楽しむことが出来ます。その各国料理は北米風にアレンジしているものもありますが、その国の作り方を踏襲しているところも多く、バンクーバーにいながらにして海外旅行をしている気分にさせてもらえます。

そんな中で当地でもラーメン店が次々とオープンし日本食とはラーメンのことか、と思わせるほどであります。流行っていますが、ピークアウトした感があります。アメリカでもラーメン店は激戦で淘汰されているところも多いと聞きます。何故でしょうか?

北米にはラーメン(或いは湯麺)を食べる習慣はつい最近まで全くありませんでした。勿論、北米在住の日本人やアジア人は食べていますが、ローカルには浸透していませんでした。それが一種のブームとなり、急速な勢いで店が増えたのは一般的な日本食料理店と違い、技術、メニューの品数、フードインベントリーの管理が圧倒的に楽だから出店しやすいからであります。一方、客側からすればお手軽値段(それでも千数百円しますが)で面白いものが食べられるという楽しさがあるからでしょう。

ところがブームはかならず剥落するようになっています。8割が「知っている」「食べたことがある」けれど「日常的にはいかない」のです。同じことはシュークリームでもいえました。カロリーを気にする人が増え、デザートは少なくする傾向が多い中でシュークリーム(PUFF)がニューヨーク経由で突然ブームとなるものの、2年ももたず、そのブームは崩壊しました。

海外で珍しいものは一時的に注目されることがありますが、それが長続きするケースは極めて少ないのであります。何故でしょうか?それは日常、口にしているものとの相違感ではないかと思います。

ステーキ。北米ではごく普通の日常の食べ物であります。数日おきに食べる人も多いでしょう。何故だかわかりませんが、日曜日の夜はステーキという人も多い気がします。昔、シアトルの郊外のゴルフ場内の重厚な造りと素晴らしいワインリストを持つレストランを経営していた際も日曜のスペシャルディナーはステーキでした。

このステーキはいくらでも食べられる理由があります。それは脂分が少なく、噛みしめた時に肉の味がするからでしょう。とくに一定年齢になると更に脂身の少ないテンダーロインのような部位を好むようになります。

私は日本で神戸ビーフに代表されるようなご当地牛はまず食べません。というより食べられません。さしと称する脂が多すぎて3口目には気持ち悪くなるのです。多くの北米の人もそう思っているはずです。しかし、日本の人は口の中に入れた瞬間にとろけるような肉を「旨い」というわけです。それは日本人の食生活の中でビーフが日常とは言えないからかもしれません。一年に1,2回食べるなら良いのです。が、それを週1,2回となれば日本人でも無理だと思う人は多いはずです。

先日日本のテレビを見ていて思わず膝を叩いてしまいました。日本で最も売れる魚はサーモンなのですが、日本で取れるサーモンはなぜ、毎日食べても飽きないのか、その答えは脂分が少ないからとのことでした。北米のサーモンとは品種が違うことがその理由のようです。ここカナダはサーモンのメッカで、私もいつも一本買ってきて切り身にして冷凍しておくのですが、決して毎日食べるアイテムにはなりません。せいぜい数週間に一度です。理由は味がヘビーなんです。日本人ならばBBQで油を落としながら焼かねば日常の食卓には上がらない気がします。逆に日本の100円寿司では北米産のサーモンは脂がのっているのですごく売れると聞きます。なるほど、寿司も毎日のアイテムではないからかもしれません。

こうみると食べ物を世界に広げ、それを安定的なアイテムにするのは実に難しいものだと思います。TPPで海外の安い食品が日本に入ることで日本の農産物は壊滅的打撃を受けると指摘する人は多いのですが、私は果たして本当だろうか、と疑問視しています。

例えば日本人のコメに対するこだわりは尋常ではなく、同じコシヒカリでもどこの産地かが決め手になります。私がレストランや食堂で気にするのは米なんです。どれだけ安くてもコメがまずい店にはいきません。それぐらい日本人の舌は感覚が研ぎ澄まされているともいえます。

山形のサクランボがなぜ復活したのか、といえばあのみずみずしく、赤ピンクの初々しさが季節の色としての美しさを引き出すからではないでしょうか?あの毒々しい色のアメリカンチェリーは甘いかもしれませんが、それだけではないと感じるのが日本人のセンスでしょう。

食文化とはそう簡単に変わるものではないですし、他から容易く侵攻されるものでもないのでしょう。日本は唯一、戦後、食糧不足の後、欧米の食が日本人の嗜好を変えたという特殊事情があることを忘れてはいけません。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 12月26日付より

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