日韓外相会談で追い詰められたのは朴大統領だ

2015年12月29日 01:16


あわただしく開かれた日韓外相会談が終わった。双方とも準備不足とみえて、協定文書も残せず、「合意事項」を日韓別々に口頭で発表し、記者会見もなしという異例の形だった。

その結果がどう出るかは、今の段階ではわからないが、経緯をメモしておく。外務省のサイトでは、日本側は

  • 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

  • 韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

と具体的に書いている。日本政府が予算(10億円)を出すのに、財団の運営は韓国政府が行なうというのは、日韓基本条約と同じく使途の不明な「つかみ金」だ。これに対して韓国側は

  • 韓国政府は,日本政府が在韓国日本大使館前の少女像に対し,公館の安寧・威厳の維持の観点から懸念していることを認知し,韓国政府としても,可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて,適切に解決されるよう努力する

としか書いていない。日本は首相がおわびして10億円出すのに、韓国は「努力する」だけだ。「安倍首相は譲歩しすぎだ」と怒る向きもあるが、それ以前に少女像の撤去さえ実行されるかどうかわからない。「努力したけどできなかった」ということもありうる。

常識的には、政府間で合意したことを民間団体が拒否することはありえないが、韓国は常識的な国ではない。少女像を設置した挺対協は、今回の合意を「外交的談合」と否定する声明を出した。

平和の碑[少女像]は、被害者と市民社会が1000回を越える水曜日を見守り日本軍「慰安婦」問題解決と平和を叫んできた水曜デモの精神を称えた、生きた歴史の象徴物であり公共の財産である。このような平和の碑に対し、韓国政府が撤去および移転を云々したり介入することはありえないことだ

今までは、韓国政府が何を約束しても、挺対協が拒否権を発動した。今回の発表が口頭で行なわれたのも、撤去が確約できないためだろう。今のところ韓国メディアは、これまでのような全面否定の論調ではないが、求心力を失った朴大統領が、最強の圧力団体、挺対協を説得できるかどうかは疑わしい。

少女像が撤去されるかどうかは、単なる公道上の障害物の問題ではない。それは韓国が、国際法(ウイーン条約22条)違反の行為を是正する法的強制力をもっているかどうかの試金石である。それができなければ、韓国は主権国家としての統治能力がないことを世界に示す結果になる。

韓国が今回の合意を履行しない限り、日本は財団に出資する必要はない。そうすると朴政権は、致命的な打撃を受けるだろう。今回の交渉で追い詰められたのは、安倍首相ではなく朴大統領である。

追記:中央日報によれば会談後、韓国外交部当局者は「これ[少女像]は明確には合意事項とみることもできず、日本側の憂慮の提起について韓国側が承知したということであり、交渉の対象ややりとりをしたというものではない」と説明した。 つまり韓国は少女像を撤去するとは約束していない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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