【映画評】完全なるチェックメイト --- 渡 まち子

2016年01月09日 06:00

1972年、アイスランドの首都レイキャビクで開催されたチェスの世界王者決定戦で、アメリカの若き天才ボビー・フィッシャーと、ソ連の最強王者ボリス・スパスキーが対戦する。フィッシャーはIQ187を誇る天才プレイヤーだったが、その言動には奇行が多く、気に入らないことがあると試合を放棄することさえあった。米ソ冷戦の真っただ中に行われたこの対戦は、国家の威信をかけた両国の代理戦争でもあったことから、世界中の注目が集まる。対局1局目はスパスキーが完勝。フィッシャーは2局に現れず、その後の対局は、フィッシャーは絶対不利と見られたが、極限状態の中で彼は信じられないような戦略をうちたてる…。

変わり者の天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの実話を描く「完全なるチェックメイト」。フィッシャーのことは映画「ボビー・フィッシャーを探して」でも描かれたが、かつて日本でも暮らしていた経緯があり、チェス界から忽然と姿を消すなど、彼の存在そのものが伝説と化している。天才というより神経衰弱と呼びたいフィッシャーは、エゴイストで誇大妄想、自信家でエキセントリックという常識の枠から離脱した人物だ。究極の対戦となると、当然それに拍車がかかる。奇人フィッシャーVS威厳ある王者スパスキーという構図だが、実はスパスキーにも静かな狂気が。つまりチェスというのは、頭脳戦であり、心理戦でもあり、プレイヤーの人格を破壊しかねない“戦争”なのだ。しかも本作で描かれる対戦は、米ソの代理戦争という政治戦という意味まであって、これでは天才じゃなくても、神経が持たない。フィッシャーを演じるマグワイヤの怪演、スパスキー役のシュレイバーの威厳と、役者陣はみな熱演。エドワード・ズウィック監督の演出も緊張感があって素晴らしい。チェスのルールなどはほとんど説明しないし、米ソ代理戦争の政治的演出も極力控えめ。おかげであまりにも個性的なボビー・フィッシャーその人の人物がより際立った。
【70点】
(原題「PAWN SACRIFICE」)
(アメリカ/エドワード・ズウィック監督/トビー・マグワイア、リーヴ・シュレイバー、マイケル・スタールバーグ、他)
(エキセントリック度:★★★★☆)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2015年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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