私が専門とするストレージの分野では、半導体をリストラしたはずの電機メーカーが再び半導体の開発を始めているようです。
これはストレージ分野の特殊事情かと思っていましたが、どうやらそうでもないらしい。
ストレージだけなく、IoTで重要になるセンサ、通信、パワーデバイス、セキュリティといった成長する半導体分野では、電機メーカーが再び開発を手掛けているらしい、ということが学会などで良く聞くようになりました。
日立、三菱電機、NECの半導体事業を切り離してルネサスエレクトロニクスができたように、大手電機メーカーは半導体から撤退した、ということになっています。
そのルネサスエレクトロニクスは巨額な赤字を計上し、従業員の約半数がリストラに追い込まれるなど、厳しい状況が続いています。
ただ、よくよく状況を聞くと、全ての半導体事業をやめたわけではなく、パワー半導体やセンサなど成長分野は本体の電機メーカーに残したケースも多かったようです。
ルネサスが厳しい事業環境とリストラに苦しむ一方、ルネサスの生みの親である電機メーカーの収益はV字回復し、成長分野の半導体事業を着々と強化してきたということでしょうか。
今や世界の半導体メーカー大手の一角にアップルが入っているように、ハード・ソフトを融合することは、サービスやインフラ事業が競争優位に立つためにも重要です。
半導体の重要性は増していますので、半導体事業を一度は切り離した日立や三菱電機が半導体を再び自社開発するのは合理的です。
ただし、多くの場合は以前のような巨額な設備投資が必要な製造部門や工場を自社で持つのではなく、設計だけを自社開発し、製造はTSMCなどファンドリに外部委託。
つまり、ビジネスモデルを変えながら、半導体を再び強化しているようにも見えます。
腑に落ちないのは、ではなぜ半導体事業をルネサスとして切り離したのか、そして、なぜ半導体開発をルネサスに委託するのではなく自社開発するのか。
これはあくまでも私の勝手な推測ですが、日本の事業環境では、特定の事業分野、例えば製造部門・工場だけを切り離すとか、不採算のシステムLSI事業だけを閉めるとか、特定の人員をレイオフすることは難しかったのではないか。もし不採算部門だけを切り離すことが難しかったとしたら、その理由が私もよくわかりません。解雇規制などでしょうか。
理由は判然としませんが、一度リセットするという意味で、半導体事業を切り離す必要があったのでしょうかね。
そして、本体の電機メーカーでは、しがらみの無いまっさらな状態から、再び半導体事業を強化し始めたのではないか。
比較的高齢の方はルネサスに移ってリストラなどで苦労され、電機メーカーではルネサス分割後に入社した(?)比較的若い人が半導体の開発を手掛けているような印象です。
これではルネサスが気の毒で、電機メーカーが半導体を開発するならばルネサスに発注してあげればいいのにとも思いますが、ドライともいえる合理的な日本流の事業再編なのでしょう。
以上は統計データを取ったわけでもなく、あくまでも私が見聞きした限られた情報にもとづく印象論ですが。
アップルやグーグルの中で半導体が強化されているように、インフラ事業などに軸足を移した日本の電機メーカーの中で、インフラ事業などの競争力をつけるために半導体が強化されていくのならば、それはそれで良い事です。
日本の半導体は壊滅状態のように言われますが、事業の姿かたちを変え、新しい戦いに入ったのでしょうね。
編集部より:この投稿は、竹内健・中央大理工学部教授の研究室ブログ「竹内研究室の日記」2016年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「竹内研究室の日記」をご覧ください。