北の核開発能力は日本に脅威か --- 長谷川 良

2016年01月11日 13:15

北朝鮮は6日、4回目の核実験を実施した。爆発が核関連物質によるものか否かを決定するのは、放射性物質希ガスの検出有無にかかっているから、現時点で「核実験」と断言できないが、北の核開発計画が欧米諸国が予想しているより着実に進展してきていることはほぼ間違いないだろう。

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▲北朝鮮使節団とIAEA関係者の協議風景(IAEA本部で、筆者撮影)

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)の天野之弥事務局長は6日、報道用声明を発表し、「北の核実験は国連安保理決議に対する明確な違反だ。非常に遺憾だ」と語る一方、北と関係国間(米中露日韓北6カ国の核協議)の政治的な合意が実現できれば、「IAEAは北の核問題の平和的解決に貢献する用意がある」と述べている。

IAEAと北朝鮮の間で核保障措置協定が締結されたのは19992年1月30日だ。あれから今月末で24年目を迎える。1994年、米朝核合意が実現したが、ウラン濃縮開発容疑が浮上し、北は2002年12月、IAEA査察員を国外退去させ、翌年、NPT(核拡散防止条約)とIAEAから脱退。06年、6カ国協議の共同合意に基づいて、北の核施設への「初期段階の措置」を承認し、IAEAは再び北朝鮮の核施設の監視を再開したが、北は09年4月、IAEA査察官を国外追放。それ以降、IAEAは北の核関連施設へのアクセスを完全に失い、現在に至っている。

当方はウィーンの国連記者室で北の核問題を取材しながら、過去、2人の北の核専門家と知り合う機会があった。2人の核専門家のプロフィールを先ず紹介する。

1990年代、駐オーストリアの北朝鮮大使館参事官として就任した尹浩鎮(ユン・ホジン)氏はIAEA担当核専門家として10年以上、ウィーンに駐在した。IAEA理事会の会場で尹氏の姿を見つけると、当方は尹氏とよく話した。父親は儒教を信じているなど、尹氏の家族についても教えてくれた。

米中央情報局(CIA)が1997年、北の核開発計画に精通している尹参事官(当時)をリクルートするためウィーン市内の尹氏宅を盗聴。それが発覚すると、尹さんは家族と共に平壌に急遽帰国した。あれから、尹氏とは会っていない。

その尹氏の名前が再び浮上したのは03年だ。独週刊誌シュピーゲルは、「尹浩鎮氏がドイツ企業家からウラン濃縮施設で使用する遠心分離機用のアルミニウム管を密輸入しようとした」と報じた。尹氏はドイツを訪ね、核関連機材や物質を調達していたのだろう。尹氏は2010年、南川江貿易会社(ナムチョンガン、原子力総局の傘下企業で核関連機材の調達会社)の責任者ということで国連安保理の対北制裁の個人制裁対象者の5人の中に入った。

尹氏がIAEA担当参事官時代、「DKS」などロシア系企業と頻繁に電話し、ロシアの軍需企業「マオ」とも接触していたことが判明している。尹氏は小柄だったが、闘争心が体から溢れる、といったタイプだった。話している時、顔は笑うが、心は別の所にある、といった印象を受けた。

もう一人は、査察官として10年間、IAEAに勤務していた金石季(キム・ソッケ)氏だ。金査察官は05年5月に帰国した。それ以後、IAEAには北出身の査察官はいない。金氏は最初で最後の北出身のIAEA査察官だった。

金氏とは個人的な付き合いが出来た。ウィーン市内の韓国レストランで一緒に食事をしたことがある。「やはり、韓国料理はオーストリア料理など西欧料理より美味しい」といって笑っていたのが印象的だった。

金さんは定年直前、高血圧で悩む奥さんの治療に心を砕いていた。息子さんたちが北に住んでいることもあって、金夫妻は「夫婦だけの生活は寂しい。息子夫婦に会いたい」と語っていた。だから、定年退職で北朝鮮に戻れるのを喜んでいた。

金氏はIAEAではパキスタンや欧州諸国の核施設の査察を担当し、西側の最先端軽水炉にも精通していた。北では核計画の顧問を務めているのではないか。欧米の原子炉を具体的に査察し、学んできた科学者は北朝鮮でも金氏しかいないだろう。北では定年退職後、ゆっくりと余生を楽しむ、とはいかないはずだ。

尹参事官も金査察官も欧州に10年以上、駐在し、欧米の最新の核関連情報を貪欲に吸収していった核専門家だ。欧米メディアでは、北朝鮮の核関連知識は貧弱だから、核兵器など製造できないといった声が案外根深い。

それに対し、米国の核専門家ジグフリード・ヘッカー博士(スタンフォード大国際安保協力センター所長)は2010年11月訪朝し、北朝鮮でウラン濃縮施設を視察し、「遠心分離機は近代的な制御室を通じて統制されていた」と驚きをもって報告している。

北の核関連施設が集中している同国平安北道寧辺の軽水炉建設敷地から九龍江を超えると核燃料製造工場がある。同工場を通過すると、北のウラン濃縮関連施設が見える。同施設は長さ約130m、幅約25m、高さ約12mの細長い施設だ。北のウラン濃縮施設は40余りある核関連施設の一つで、「4号ビル」と呼ばれている。

2人の北のエリート核専門家と接触した個人的体験からいえば、「資金があれば」という条件付きだが、北は核兵器ばかりか、水爆も製造できるノウハウを獲得済みと見ている。北のプロパガンダには注意しなければならないが、北の核関連知識水準を侮ってはならないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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