朝鮮半島の思惑

1月13日の韓国朴大統領の中国に対する厳しい声明を聞いて奇妙な気がしたのは私だけでしょうか?朴大統領は年頭記者会見で「困難でつらい時に手を握ってくれるのが最高のパートナーだ」と述べ、韓国が北朝鮮との関係で「非常事態」にあるのに中国は優しい姿勢を見せないと苛立ちを見せています。朴大統領は中国と蜜月の関係を作り、昨年の9月の抗日軍事パレードでも参加した主要国の顔としてその連携ぶりを強く印象付けました。

直接的な引き金は北朝鮮の水爆実験に対する中国側の今一つ煮え切らない態度なのだろうと思いますが、それだけではなさそうです。朴大統領は習近平国家主席との協議を長く申し入れているようですが中国からはなしのつぶてとされています。

じわっと変化した一つの背景は経済問題ではないかと思います。上海市場で株価が大幅に下落した昨年夏、改めて注目されたのが中国の成長率の鈍化で、中国はなりふり構わずモノを販売しなくてはやっていけない状態となりました。これはそれまで巨大なクジラのごとく、あらゆるモノを購入し、生産、消費するサイクルからは逆回転であります。韓国にとって中国との蜜月の関係の背景は中国への経済依存度であったはずです。それが例えば中国からの安い鉄鋼が韓国に流入するなど想定と逆のシナリオになり始めたことから「中国サマサマ」の様相が変わってきたことが考えられそうです。

事大主義からすれば中国が小中華である韓国を面倒見てくれるのは当たり前なのにどうしてこんな困苦を押し付けられなくてはいけないのか、という憐れみを押し付けるスタンスに見えます。つまり日韓の関係をそのままミラーにしたのが中韓の関係でもあるわけです。そして歴史が物語る通り、朝鮮半島は中国と日本を天秤にかけ、都合のよい方になびく姿勢をとり続けるのです。

4世紀から7世紀ごろ、朝鮮半島は三国時代と呼ばれ高句麗、新羅、百済がその国内の争いを延々と続けていました。初期の頃は朝鮮半島南部に任那という日本の影響を受けた地域があり三国間のバランスに一定の影響を与え、任那を自陣にどう取り込むかが戦略の一つでありました。その一方で、魏、隋、唐といった中国側との駆け引きも活発でした。国境にあった高句麗はもとよりその後国内統一をする新羅も唐からの支援をもらうことでその統一を果たしたわけです。

イメージカラーの赤いスーツを着込んだ朴大統領のその声明からはいら立ちが見て取れました。とすれば年末の日韓の慰安婦問題合意の背景もこのあたりに一つの理由が見いだせるかもしれません。中国に頼れないなら日本を取り込まねばならない、と。

確かに韓国はいまだ北朝鮮と休戦状態であり、いつ何時戦争が再開されるかわからない危機感を抱き続けています。朝鮮半島が東洋のバルカン半島と言われる所以です。世界的に見ても大陸における半島は地形的に不安定要素を作りやすいのです。

他方の北朝鮮は「お友達」を失いつつある今、暴発する危険性がないとは言えません。金正恩氏の行動が読めないというのはこのことです。日本の戦国時代における戦略は敵を逃がす道を一つだけ残しておくことで兵を温存し、平穏無事に治めることです。しかし、朝鮮半島の歴史は基本的に生きるか死ぬか、という熾烈な流れも多く、韓国からすればソウルまでごくわずかの距離にある北朝鮮は脅威以外の何ものでもないでしょう。そうなれば頼れるのは打てば響くアメリカであり、その同盟関係にある日本であります。

中国は外交に関しては時として我関せず的な行動をとることがあります。事態の行方を見て都合のよい方につく、という発想ではないかと思います。北朝鮮についても中国発の声明では厳しいことを述べていますが、実際には経済制裁を加えるなどの厳しい措置には動かないとみています。

となればこのところ急速に話題になってきた日韓の通貨スワップ再開もこの韓国をめぐる日本と中国のシーソーゲームの一環なのでしょうか?通貨スワップのメリットは韓国にあるわけですがこれは日韓の雪解けムードを演出するための仮面の政治ゲームのように見えます。多分、その背景にはアメリカがあるのでしょう。つまり、本来のシーソーはアメリカと中国なのですが、オバマ大統領もレームダックでアメリカの政治も混とんとしているため、日本にその役割を代行させている、という見方です。

多分ですが、将来的に日中通貨スワップもあり得ると思います。これは中国元の台頭に対してアメリカが日本を介して調整機能を持たせる仕組みではないかと思います。もっと極端な言い方をすればアメリカはアジアを支配できないので日本にその役目を果たしてもらいたい戦略が透けて見えそうです。

私の今年の年頭の10大予想に「日中韓の雪解け」というのが入っています。これはまんざらでもなくなるかもしれません。しかし、あくまでも計算高い政府レベルでの話で、一旦レールを築き、その後、国民を懐柔するのでしょう。さてどうなることか。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ外から見る日本、見られる日本人 1月18日付より