日本のサラリーマンはSMAPである

2016年01月18日 14:36

芸能ネタにはまったく興味がないのだが、SMAP騒動はどうやらジャニーズ事務所の勝利に終わり、飯島マネジャーがクビになってメンバー5人が戻るようだ。これは「独立したタレントは他の芸能プロでは使わない」というカルテルに敗北したといわれている。

これは日本社会の縮図である。サラリーマンも専門能力を問わない新卒一括採用で、入社後しばらくはコピー取りなどの「雑巾がけ」をやりながらOJTで仕事を学ぶ。それは先輩を見て習得する社内調整などの企業特殊的技能だから、他の会社では役に立たない。また他の企業も中途採用はほとんどしないので、独立したら干される芸能界と同じだ。

これは経済学では、退出障壁と呼ばれておなじみだ。未開社会でも、共同体に贈与することによって忠誠心を示す「ポトラッチ」などの慣習は広くみられる。これは個人を共同体に囲い込むシステムなので、贈与するのは他で役に立たないサンクコストでなければならない。

サラリーマンも、他社では役に立たない企業特殊的技能に投資することで、自分を会社にロックインして忠誠心を示している。企業にとっては、先輩が教えた技能を他社に転職して使われてはOJTのコストが回収できないので、タコ部屋で人的投資を守るわけだ。

芸能界では、こうした人的投資のリスクが特に大きい。ジャニーズ事務所のタレントのうち、収益を上げているのは1割ぐらいだろう。彼らの高額のギャラを他の9割の売れないタレントの給料として分配しているから、当たったタレントだけが独立すると無名のタレントを養成するコストがなくなるのでカルテルを組むのだ。

ハリウッドでも興行収入が黒字になる映画は15%といわれるが、タコ部屋にはなっていない。スタジオ(日本の芸能プロに当たる)は当たれば大もうけし、はずれたらつぶれる。俳優やスタッフは映画1本ごとにスタジオと契約し、当たったら大きなリターンを取る。大部屋俳優は保険に入って、そのリターンを分配してもらう。

これは芸能界だけの問題ではない。これからサービス業が経済の中心になると、もっとも高い収益を上げるのは、ITや金融などのハリウッド型産業だが、それは芸能界に劣らずハイリスク・ハイリターンの世界だ。ジャニーズ型システムは、業界のメンバーが固定してカルテルが維持できる後進的な産業でしか成り立たない。

こういうタコ部屋システムを「メンバーシップ」とか「すり合わせ」などと美化しているかぎり、日本企業に未来はない。SMAPの敗北は、日本の企業システムの「脱構築」の道がまだまだ遠いことを示す出来事だった。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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