マイナス11度の「ダボス」が世界一熱い場所に --- 南 壮一郎

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昨年の11月上旬、僕のメールアドレスに一通の招待状が届いた。件名には、
「Invitation: World Economic Forum Annual Meeting 2016」
と書かれており、PCのモニターを見ながら、思わずニヤッと微笑んでしまったのを覚えている。

毎年、年始のこの時期に、スイスの山奥にある小さなスキーリゾートは、数日間だけ、世界でもっとも熱い街へと変貌を遂げる。

「ダボス会議」。各国の元首や大臣、グローバル経営者、トップジャーナリストなど、政財界を代表する世界の名だたるリーダー約2,000名が、この「ダボス」という街で開催される招待制カンファレンスに集結する。ここで、世界単位の諸課題や我々の未来の姿などをテーマに、講義やパネルディスカッション、立食パーティーなどが連日連夜行われ、リーダーたちは熱い議論を交わす。

ご縁が世界に急速に広がったこの2年


そんな重鎮たちが集結するダボス会議に、今年、小さなベンチャー企業を経営する自分がなぜ参加することになったのか…。

それは2014年にさかのぼる。その年、ダボス会議を主催する世界経済フォーラム(World Economic Forum = WEF)から、40歳以下で構成される「ヤング・グローバル・リーダー」(YGL)の一人に選出されたことが全ての始まりだった。

世界経済フォーラムは、ダボスでの年一回の本会議を中心に、世界各地でいくつもの地域会議が年中開催されている。昨年、インドネシアで開催された東アジア地域会議で、ある討論のモデレーターをやってみないかと依頼を受けて快諾したところ、その後、YGLの年次総会(スイス・ジュネーブで開催)等でも、さまざまな役割をお願いされるようになった。

国際会議に参加する日本人起業家が珍しいのか、そこで出会ったご縁は急速に広がり、昨年、ハフィントンポスト創設者であるアリアナ・ハフィントン女史主催の「Future of Work Conference」(ロンドンで開催)で登壇しないかとお誘いを受けるなど、それまで自分が想像したこともないような、初めての景色や色彩豊かな世界が目の前に広がっていった。

またYGLに選出された際に聞いていたが、YGLのメンバー全員がダボスで行われる本会議に招待されるわけではなく、地域会議での活動実績や貢献度合いによって各国から数名ずつ選ばれる。実はYGLの任期は6年あるため、自分自身は「本会議は経済界のワールドカップのようなところだから、いつか行けるといいね」と会社のみんなと話しながら、日々の仕事のペースが崩れないことを第一に、各イベントへ参加させてもらっていた。よって、本会議へ招待されると知ったときには、こんなにも早く実現したのかと本当にビックリした。

今回の貴重な体験は、間違いなく、会社の仲間がいるからこそ実現したものである。だからこそ、みんなの代表として出席させてもらうならば、ぜひ、自分で見たこと、聞いたこと、肌で感じたことを、自分らしい言葉でみんなに伝えたい。どのくらい書けるか分からないが、期間限定の体験記を書いてみることにした。

はたして、どんな体験や感情の変化が自分を待ち受けているのか? 本会議の開催前日に到着したダボスのホテルの一室で、これからの数日間に起こる出来事を想像しながら、そして、ワクワクを抑えながら、キーボードを心地よく打っている。

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ダボス会議、日本ではあまり知られていない?


そもそもダボス会議の存在は、日本ではあまり知られていないようだ。実は、僕自身も何となく知っていた程度で、一昨年、YGLに選ばれた際に、これはさすがにまずいと思い、詳しく調べた(笑)。

ダボス会議の主催者であるWEFについて、Wikipediaには「ビジネス、政治、アカデミアや、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界・地域・産業のアジェンダを形成し、世界情勢の改善に取り組む、独立した国際機関として、ジュネーブに本部を置きスイスの非営利財団の形態を有している」と書いてある。

この説明をあらためて読み直し、そういえば当初、WEF関連の会議に出席するなかで、自分自身が何らかの違和感を覚えたことを思い出した。それまでの数年間、自分は、風が吹けば明日にでも吹き飛ばされてもおかしくないような小さなベンチャー企業の経営者として、とにかく自分たちが生き残ることしか考えてこなかった。いや、考えざるを得なかった。WEFは国益や経済的利益とは無縁な組織のため、そもそもベンチャー経営者として日々の発想や着想、もっというと目の前の危機を解決することだけに染まっていた自分には遠い存在のように感じていた。

また、各会議に参加するたびに、「どうしたら世界をよりよくできるのか」「どのような未来が人類を待ち受けているのか」という壮大なテーマが議論の中枢にあった。同時に、普段接点のない国や国際機関の錚々たるリーダーたちが、全員、視座の高い議論を繰り広げていくのを目の当たりにした。雰囲気に圧倒されることはなかったが、そもそも議論に参加するほどの知識をもっていない。むしろ、考えたことすらなかった。そして、ただ周囲の話や議論を聞くだけの時間が過ぎていった。

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視野が圧倒的に広がった瞬間


そのように、積極的な姿勢で会議に臨めていなかった自分が、ふとしたきっかけで大きく変わった。それは昨年の東アジア会議だった。あるセッションのモデレーターをお願いされた際に、その分野において専門知識がないことを事務局の女性に伝えると、「だからあなたに依頼したのよ。むしろ、詳しく知らないからこそよい議論を引き出せるもの。自分が聞いてみたいことをスピーカーや観客に率直に問うてみなさい」とアドバイスされたのだ。

それから、自分の知らない世界や普段の仕事とは関係ない領域の議論にも積極的に参加するようになった。視野が圧倒的に広がり、世界中の友達の輪もさらに広がった。これまで気づきもしなかった世界中の社会的な出来事に、何らかの感情をもつようになった。

「楽しい」。一言で、そんな自分の目線の変化を表現できる。

先程、夕食の待ち合わせ場所に行くためにホテルから出ようとしたら、フロントの方が「気温はマイナス11度ですよ」と教えてくれた。極寒でありながら、世界一熱いダボスから、僕が感じたありのままのことを、数日間、お届けしたいと思う。自分の変化とともに。

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南壮一郎
1999年、米・タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社に入社。2004年、新プロ野球球団設立に興味を持ち、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、管理職・グローバル人材に特化した会員制転職サイト「ビズリーチ」をはじめ、20代向けレコメンド型転職サイト「キャリアトレック」や日本最大級の求人検索サイト「スタンバイ」などを運営する。創業7年目で従業員数561名(2016年1月)の組織へと成長させる。世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ2014」に選出される。


編集部より;この記事は、株式会社ビズリーチ運営の「みんなのスタンバイ」に掲載された南壮一郎社長のダボス会議体験レポートの連載を転載させていただきました。オリジナル記事をお読みになりたい方は、こちら へ。