ユダヤ人が野球帽を被る時 --- 長谷川 良

2016年01月28日 12:00

1月27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」 (International Holocaust Remembrance Day)であり、ウィーンの国連でも追悼行事が開催された。この日を迎え、欧州の反ユダヤ主義の台頭に改めて警鐘が鳴らされる。

フランス情報紙パリマッチが実施した世論調査によると、フランス国民の70%はユダヤ人が安全のためにキッパ(Kippa)を被らず隠すことに反対している。バチカン放送独語電子版が20日、報じた。

世論調査は同国でキッパを被ったユダヤ人がナイフを持った男たちに襲撃されるという事件が起きた直後に実施された。同国のマルセイユでは昨年10月以来、ユダヤ人の男性を狙ったナイフ襲撃事件が3件起きている。

キッパはユダヤ人の男性が被る円形の帽子だ。テロの襲撃を避けるためにキッパを被らないことは「テロリストの脅迫に屈服することを意味する」というのが、反対する国民の主要理由だった。

安全のためにキッパの代わりに野球帽を被ることはイスラム教徒の女性がイスラム教徒であることが分からないようにするためスカーフを被らず歩くのと同じ状況といえるかもしれない。自身のアイデンティティを隠して生きていかなければ自身の安全が危ないという社会は普通ではない。

隣国ドイツでも反ユダヤ主義が席巻している。特に、北アフリカ・中東諸国から昨年、100万人の難民、移民がドイツに殺到してきたが、彼らの大多数はイスラム教徒だ。増加するイスラム教徒に対し、ユダヤ人は不安を感じ出している。

ユダヤ人中央評議会のサルモン・コルン氏は、「警察や私服警察に保護されていないユダヤ人学校、幼稚園はもはや存在しない」というほどだ。ウィーン市内にあるユダヤ文化センターも同様、24時間、警察官が警備している。

フランスでは昨年1月、仏風刺週刊紙テロ事件とユダヤ系商店テロ事件が、11月には「パリ同時テロ」が起きるなど、イスラム過激派テロ事件が頻繁に起きている。治安状況の悪化を受け、多数のユダヤ人家庭がイスラエルに移住している。シナゴークやユダヤ系施設への襲撃が絶えない中、生命の危険を感じて移住を決意するわけだ。2014年でその数は7000人というから、少なくはない。

パリの反テロ国民大行進に参加したイスラエルのネタニヤフ首相はフランス居住のユダヤ人にイスラエルへの移住を歓迎すると述べたほどだ。ブリュッセルに本部を置く欧州連合(EU)も欧州全土で反ユダヤ主義が拡大してきたと警告を発している(「なぜ、反ユダヤ主義が生まれたか」2015年1月28日参考)。

野球帽を被ったユダヤ人の若者を見たら、彼が米国のベースボール・ファンとは思わないでほしい。ユダヤ民族はそのアイデンティティを隠しながら生きていかざるを得なかった悲しきディアスポラだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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