金正恩氏よ!ゲームオーバーだ --- 長谷川 良

北朝鮮は7日午前(日本時間)、長距離弾道ミサイルを打ち上げ、軌道に乗せることに成功したもようだ。北側は地球観測衛星「光明星」と称しているが、日米韓などは「長距離弾道ミサイル」と判断、ミサイル発射を禁じる国連安保理決議に明確に違反すると指摘、緊急安保理を招集し、北側への厳しい制裁を協議する運びだ。

先ず、韓国の報道から北のミサイル発射の状況を振り返る。 

聯合ニュース7日午前9時34分・・「北、ミサイルを打ち上げ」と報道
聯合ニュース同10時21分・・・・「打ち上げ失敗か」と速報
連合ニュース同11時12分・・・・「北朝鮮ミサイル 東倉里の南790キロ・高度386キロで消える」と速報

韓国軍同日12時08分・・「北の発射体は軌道進入」と発表、打ち上げ成功と分析
北側は同日12時34分・・「光明星4号、打ち上げ成功」と発表
(朝鮮中央テレビ同日正午、特別重大報道で「地球観測衛星の光明星4号が軌道進入し、打ち上げに成功した」と発表)

北朝鮮は今回を入れて6回、長距離ミサイルを発射した。

①1998年8月31日、「テポドン1号」日本列島を越えて約1600キロ飛行した
②2006年7月5日、「テポドン2号」は発射約40秒後に東海に墜落
③2009年4月5日、「銀河2号」は発射
④2012年4月13日午前7時38分に発射した「銀河3号」が空中爆発
⑤2012年12月12日、「銀河3号」2号機を発射
⑥2016年2月7日、「光明星4号」、発射、軌道進入に成功
 
発射時間はいずれも午前から正午にかけて実施されてきた。

<欧米諸国の反応>

①米ケリー国務長官
「北朝鮮は核実験からわずか1カ月で大規模な挑発を行った。これは朝鮮半島の安定を脅かすだけでなく、地域と米国に対する脅威だ」(聯合ニュース)
②朴槿恵大統領「容認できない挑発行為を敢行した」
 韓国政府声明
「北側住民の生活は度外視し、もっぱら体制を維持するための極端な挑発行為」と批判
③日本の安倍省三首相
「ミサイル発射を強行したことは断じて容認できない。明白な国連決議違反だ」
④潘基文国連事務総長
「国際社会がミサイル実験をしないよう促したが、安保理決議に違反して弾道ミサイル技術を用いてロケットを発射したのは非常に嘆かわしい」(聯合ニュース)
⑤中国側の反応
「平壌の今回の行動は非常に遺憾だ」

以上、北側の今回の長距離弾道ミサイル発射に関連する報道をまとめた。

金正恩氏は先月6日、4回目の核実験(北側発表・水爆)を実施したばかりだ。その1カ月後にその核爆弾の運搬手段でもある長距離弾道ミサイルの発射を強行した。核実験と長距離ミサイル発射は戦略的にセットされたものであり、北はこれまでも核実験直後、長距離ミサイル発射を行ってきた。その意味で、北側のミサイル発射は織り込み済みの事であり、驚きには値しない。

問題は、北が核実験と長距離ミサイルの実験を繰り返すごとに、その性能が着実に向上してきていることだ。ミサイルの射程距離だけではない。核の小型化もかなり進展してきている可能性がある。

厳密にいえば、北の核問題は朝鮮半島周辺の安全問題だったが、米本土にまで飛ぶ北の長距離弾道ミサイル開発で文字通り米国の安全問題ともなってきた。北に非核化を要求し、北の動向を見守るオバマ大統領の「戦略的忍耐」の対北政策は完全に失敗したわけだ。

長距離弾道ミサイルの発射を受け、米国は北に対しこれまで以上に厳しい制裁に乗り出すことが考えられるが、米国の政界の焦点は現在、次期大統領選にある。それだけに、米国は対北への抜本的対応が取りにくい。それゆえに、日本と韓国両国は率先して米国と連携を取りながら、積極的な対北制裁に乗り出すべきだろう。

核兵器を開発し、長距離弾道ミサイルを発射したとしても国民の飢えは解決されない。そのことは過去の核実験と長距離ミサイル発射で明らかなことだ。金正恩氏はいつまで国民を犠牲にし、父親・金正日総書記の「先軍政治」を継続するつもりだろうか。

祖父は国民に向かって「国民が白米を食べ、肉のスープを飲み、絹の服を着て、瓦屋根の家に住めるようにする」と約束したが、3代目の独裁政権に入った現在もその基本的な国民の願いは果たされていないのだ。

北が核実験を実施し、長距離弾道ミサイルを発射すれば、同国は国際社会から益々疎外され、国民経済の発展は期待できない。国連の対北制裁が北の国民経済の発展に大きなハードルとなり、外国企業の投資は完全に途絶えてしまうからだ。

金正恩氏よ、ゲームオーバーだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。