壊死してゆく日本経済:『マイナス金利』



日銀の突然の「マイナス金利」宣言で市場は大混乱になっているが、本書はまるでそれを予見したかのような本だ。出版は昨年12月なので、もちろん今回の日銀の決定については書いてないが、ヨーロッパでは2009年にスウェーデンがマイナス金利を導入したのを初め、2014年にはECB(欧州中央銀行)も導入した。

これも中央銀行当座預金の超過準備が対象だが、その影響は一般の金利にも及び、大口預金から手数料を取る銀行も出てきた。これは驚くべき政策ではなく、自然利子率(資金需要が供給と均衡する金利)がゼロを下回った場合に、手数料を取れば金利をマイナスにして、理論的には均衡を実現できる。

日本でも実質金利はかなり前からマイナスなので、今回の措置がそれほど大きな変化をもたらすわけではないが、黒田総裁が「必要とあれば追加的措置を取る」と言ったことが疑心暗鬼を呼んだのではないか。デンマークやスイスでは-0.8%まで下がっており、日銀がここまで下げると銀行の経営を悪化させ、貸し出しは抑制されるだろう。

第2次大戦後のイギリスがマイナス金利(名目金利<インフレ率)にしたのは、政府債務を減らすために金利を抑え込む金融抑圧だった。これなら金利の暴騰やハイパーインフレによる劇的な財政破綻は起こらないが、マイナス金利がマイナス成長をもたらす悪循環に入り、日本経済は壊死してゆく。

アベノミクスは太平洋戦争に似ている、と著者はいう。まず「デフレ脱却で成長する」という目標を掲げ、「2年で2倍」の異次元緩和で奇襲攻撃をかけ、短期決戦で勝負をつけるはずだった。それが失敗してもずるずると戦線を拡大し、ボロボロになっても戦争をやめられない。それは人口減少と高齢化の進む日本で、高度成長の悪い夢を見ているからだ。

マイナスの悪循環を断ち切るには、低成長時代に適応した政策に転換し、社会保障を見直して財政規律を取り戻すしかない。政府債務を金融抑圧で踏み倒すと、資本が日本から逃避し、未来に希望を失った若者が日本から出て行くのが「ハイパー・インフレよりも怖い日本経済の末路」である。