「ISの処刑リストに載って」 --- 長谷川 良

2016年02月11日 22:00

当方は昨年、このコラム欄で「テロリストから狙われる国連記者」(2015年4月17日)の中で「X氏」と匿名で紹介したが、当方の友人記者、イラクのバクダッド出身のイスラム教テロ問題専門家、アメール・アルバヤティ氏の話だ。同氏は8日、ウィーン市内の喫茶店で新著「ISの処刑リストに載って」(Auf der TodeslISte des IS)の記者会見を開いたので、X氏の実名をここで明らかにする次第だ。

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▲新著の発表記者会見に臨むアルバヤティ氏(2016年2月8日、ウィーン市内で撮影)

アルバヤティ氏は2年前、「君、脅迫状を貰ったよ」とあたかも他人事のように話していたが、同氏の名前がイスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)から処刑リストに載せられた後、オーストリア内務省テロ対策特殊警備隊から2人が派遣され、同氏の身辺警備に当たった。「防弾チョッキを着たよ」と笑っていたが、奥さんの話になると「彼女は心配している」と申し訳なさそうに語った。当方も国連記者室や外で彼と自由に会うことはできなくなった。

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▲アルバヤティ氏の新著「ISの処刑リストに載って」(2016年2月8日、撮影)

友人は現在も警察官の常時身辺警備下にあるが、少しは新鮮な空気が吸える自由が与えられたという。そこで今回、新著発表の記者会見を開いたというわけだ。

記者会見が開かれる喫茶店の入口前には2人の私服警官が立っていた。ジャーナリスト、外交官、NGO活動家たちが出席した。駐オーストリアのドイツ大使館から派遣された外交官がアルバヤティ氏の言動を真剣な顔をして追っていたのが印象的だった。

アルバヤティ氏は2002年、オーストリアのリベラル・イスラム教団体を創立し、欧州居住のイスラム教徒に西側の文化、価値観への統合を呼びかけてきた。

「自分はイスラム教徒だ。欧州で居住する以上、欧州のキリスト教を尊重し、その文化を学ばなければならない。イスラム教徒は西側社会のいい点を吸収していくべきだ。他宗派との対話なくして社会への統合はない」

欧州のイスラム教徒がシャリアを主張することに対しては「それは間違いだ」とはっきりと指摘する。

「自分はこれまで15回、処刑の脅迫を受けてきた。自分は今月で74歳だ。いつ死んでもいい覚悟は出来ている」という。

同氏によると、欧州居住のイスラム教徒の約10%はサラフィー主義者(イスラム根本主義者)だ。欧州でイスラム過激派の拠点を構築していったのはムスリム同胞団だという。

「イスラム教系文化施設の背後にムスリム同胞団が暗躍している。それを知らない欧州連合(EU)は補助金を与えて援助してきたのだ。その結果、欧州にはイスラム過激派の拠点が生まれてきた。ウィーン市内で幼稚園を経営しているイスラム教グループはドイツ語ではなくアラブ語で幼児を教育している。社会の統合とは全く異なった方向で運営されているのだ」

友人は欧州でテロ事件が発生する度にBBCやさまざまなTV番組に出演し、イスラム教過激派テロ組織を厳しく批判してきた。オーストリアの高級紙「プレッセ」でも、イスラム教過激派に警鐘を鳴らす記事を何度も掲載した。要するに、同氏はイスラム教過激派テロ組織にとって嫌な存在となったわけだ。

「パリ同時テロ」事件後、欧州各地でイスラム・フォビア(イスラム嫌悪)が見られるが、アルバヤティ氏は「欧州のイスラム教徒の約80%は穏健な信者だ」と説明し、イスラム教徒というだけで襲撃したり、罵声を浴びせることに対しても強く批判する。

「欧州のキリスト教社会は今、ジレンマ下にある。開かれた寛容な社会を標榜してきたが、イスラム教過激派がそれを巧みに利用して欧州で拡大してきたのだ」という。

当方は記者会見で久しぶりに友人に会った。歳を取ったが、元気そうで安心した。
「お前の家族は元気か」と聞いてきた。「お蔭さまで」というと、笑いながら「また会おう」と言った。

アルバヤティ氏の名前がISの処刑リストから削除される日は当分こないだろう。友人は長期戦を覚悟しているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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