金正恩が捨てた「チョコパイ」 --- 長谷川 良

2016年02月17日 12:00

韓国の朴槿恵大統領は北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイル発射を受け、開城工業団地(KIZ)の全面操業の中断を決定した。中央日報(日本語電子版)によると、大統領は南北統一への最後のシンボル的存在だったKIZの全面中断を決定する際、その顔面は怒りで溢れていたという。同大統領にとってKIZの閉鎖は大きな失望であり、同時に、制裁に追い込んだ北側への強い怒りがあるのだろう。

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▲「開城工業団地の職場風景」KOTRAの資料から

北の開城市は韓国首都ソウルから北西68kmに位置する。その開城市で工業団地建設計画が2002年11月、発表された。韓国の資本と技術を北側の低賃金と質の高い労働力に連結させていくという案で、03年6月に両国間で正式に締結。04年12月、KIZで最初の製品が生産され、6年後の10年9月には総生産高は10億ドルに達成した。12年1月には北労働者数は5万人を突破。北の核実験などの影響でKIZは一時停止されたが、2013年8月、南北両国は開城工業団地の正常化に関する5項目の合意書に署名し、再スタートした。韓国の大韓貿易投資振興公社(KOTRA)がKIZのグローバル化を目指し、世界16カ国(米国、中国、日本ら)151社の外資会社を対象に開城工業団地への投資を呼びかけていた矢先だ。それが完全に水泡に帰したのだ。

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▲チョコパイ
KIZには125の韓国企業が操業していた。北労働者の数は5万4000人だ。韓国メディアはこの決定が北側に大きなダメージをもたらすと予想している。同地帯から得られる外貨収入の道が途絶えるからだ。ちなみに、中央日報は「国家格付け機関ムーディーズは開城工業団地の閉鎖が韓国の国家信用に否定的な影響を与えると予想している」と報じている。

工業団地の閉鎖決定後、韓国の洪容杓統一部長官は12日、「北は同団地で稼いだ外貨を核開発やミサイル開発に利用していた」と発言し、国内で物議を醸すと、15日にその発言を修正している。

北がKIZから入ってくる外貨を核やミサイル開発に利用したのではないかという懸念は当然だが、韓国政府がそれを裏付ける関連資料を持っていたとは考えられない。統一長官の発言はKIZ閉鎖ショックから飛び出した無責任なものだろう。

一方、職場を失った北側労働者にとって大ショックだ。西側ならば、数カ月間から半年間、失業手当が貰えるから、その期間、新たな職場を探すこともできるが、北ではそのような社会システムはない。給料の70%以上を当局に没収されていたとはいえ、北労働者にとって給料は大きな恵みだったはずだ。それに昼休みにチョコパイを支給する韓国企業もあったという。チョコパイを食べずに家に持ち帰って子供に与える北労働者が多かったという。そのチョコパイがなくなるのだ。労働者の子供たちにとってもショックだろう。

開城工業団地で仕事が与えられた労働者は恵まれていた。“開城エリート層”と呼ばれ、他の地域の北国民から羨望の的だったという(「北の“チョコパイ革命”」2011年11月27日参考)。

日頃から贅沢三昧の金正恩第1書記はチョコパイには見向きもせず、「今後も核実験を進め、長距離弾道ミサイルの開発を続けていけ」と発破をかけている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月17日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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