丸川珠代環境相の勇気

加藤 完司

丸川珠代環境相は7日、松本市内で講演し、東京電力福島第1原発事故を受けて国が原発周辺などで行っている除染で、基準となる年間被ばく量を1ミリシーベルトとしている点について、「『反放射能派』と言うと変ですが、どれだけ下げても心配だと言う人は世の中にいる。そういう人たちが騒いだ中で何の科学的根拠もなく時の環境大臣が決めた」などと述べた。

これを見た時、さすが自民党の環境相、ご立派と思ったがあっさり陳謝してしまった。

ICRPの勧告があるのに「何の科学的根拠もなく」とはけしからん、という言葉尻の問題らしい。ICRPの勧告は引用で恐縮だが、「公衆の被ばく限度は年間1mSv」、「職業人は年間50mSvかつ5年で100mSv以下」、「緊急時で被ばくがコントロールできないときには年間20-100mSvの間で、ある程度収まってきたら年間1-20mSvの間で目安を定めて、最終的には平時〔年間1mSv〕に戻すべき」というようなもの。

もちろん、環境相としては百も承知で、この勧告自体を「科学的根拠なく」といったのだろう。

実は、世界で被爆の実態例が最も多いのが日本。広島・長崎の原子爆弾の被ばく者の研究によれば、生涯線量が100mSv以下の被ばく量の増加で、健康被害の増加は観察されなかった。すなわちこの水準では、放射能の影響は統計に表れないほど極少である、というのが科学的根拠である。その証拠が、何度も書いてきたように宇宙飛行士の被爆基準であり、文部省の啓蒙パンフレットだ。福島事故では早期に避難したので、もともと放射線量強度が低かったこともあり、原発内の作業者を除いて被爆による被害者はいないし、今後全員帰還したとしても健康被害は起きないだろう。要するに現在の基準を100倍にしても何も問題は起きない。

それにもかかわらず除染等の美名の元に、数兆円の金がまさにドブに捨てるように土建業者を含む関係企業に落とされている。担当大臣としては、無駄な税金の漏出を阻止しよう思って当然である。現在の放射線量については先日書いたばかり(→放射線量分布の現在 http://bb79a.blog.fc2.com/blog-entry-1106.html)。

自民党とすれば、馬鹿げた基準は民主党が作ったものなので、これを現実的なレベルに引き下げ、余った財源を消費税減税に充てる、とでもすれば良かったのに、あろうことか、大臣に陳謝させて千載一遇の機会をつぶしてしまった。多分、参院選を控え、世論を逆なでするような政策はまずいと幹部連中が政治判断を下したのだろう。世論とは、慰安婦問題や放射能問題、STAP細胞などの例をみればわかるように、一部の狂信的な新聞やテレビによる捏造された情報の集大成。そして政治判断とは実はそれを知っていながら大衆に迎合する私利私欲のことだよな、と思う。