英国 EU離脱への挑戦

英国がアメリカ同様、プロテスタントの色が多少強い国だとすればアメリカの大統領選挙にみられる様に、なにか新しい世界に挑戦することに並々ならぬ意気込みを感じる国なのでしょうか?あるいは真逆のようですが、英国は古い伝統を重んじる保守的な国であるがゆえにEUとの関係は本質的に受け入れ難いものであるのかもしれません。

今年前半、世界の目は英国の展開にくぎ付けになりそうです。EU離脱を問う国民投票が6月23日に実施されるからであります。

この国民投票はもともと前回の選挙の際、キャメロン首相が公約していたものでそれがいよいよ実現する流れなのですが、当初はもう少し先という感じだったと思います。が、ここにきてキャメロン首相はEU各国と根回しし、19日にはEUが英国をお仲間のひとりとして確保する為に移民に対する社会福祉への制限緊急措置など「気配り案」を28カ国全会一致で採択し、相思相愛ぶりを見せつけました。

が、英国の社会構造はホワイトカラー、ブルーカラーが明白に分かれています。ホワイト族がどれだけ英国が未来永劫繁栄する素晴らしいストーリーを作り上げたとしてもブルー族は「しかし、なだれ込む移民で我々は目先、職を失うリスクがある」と立ち上がり、気勢を上げるでしょう。この対立軸の中で国民投票という至極平等なシステムでは数の原理が有効となります。

そんな中、次期首相の有力候補の一人でロンドン市長のジョンソン氏が離脱派に回ったことで国内の二分化はスコットランド民族党(離脱反対)と英国独立党(離脱賛成)をも含め、より明白になりつつあります。

では、実際に離脱する可能性があるのか、といえば現時点では予想不能です。長年の国民からの強いボイスが国民投票に至るわけですからこれから4か月の間の国内外を取り巻く情勢次第で大きく変化するでしょう。

では、離脱すればどうなるかですが、国民投票の結果、今日明日、にすぐ離脱するわけではなく、当然、然るべき準備期間が設定されることになります。その間にEUが作り上げた様々な諸外国との関係を英国が早急に作り直す作業が必要でそれがどれ位早く、且つ、英国にとって不利にならない形となるかが決め所だと思います。

一方、HSBCは離脱の際にはパリなどに本社移転するなど表明しており、ロンドンの金融機能、シティとしての役割が一時的に薄れる可能性は出てくるかもしれません。ただ、EUにはルクセンブルグなど金融機能が充実したところもあり、補完関係を模索することで最小限のロスに留める対策は打ち出すでしょう。

産業については先進国では最低水準の法人税20%を武器に更なるメリットを打ち出して工場進出などを誘致し、国内産業の勃興に努めるでしょう。

私は仮に離脱となれば短期的には悲観論が持ち上がりますが、長期的には英国に有利になる可能性はあると指摘しておきます。

ユーロのシステムは以前から不完全と言われ続けながらも改築できない巨大な構造体をだましだまし使っているともいえます。ギリシャ支援の際の各国のエネルギーの使い方は尋常では無かったのですが、それは他の盤石ではない国々に「病」が伝播しやすいリスクを抱えていたからです。

更に今回の問題に拍車をかけたのが難民問題ですが、域内のアクセスが自由になるシェンゲン条約の弱点を突いたともいえます。これらの問題は大陸と島の間の「感性の問題」ともいえ、英国はあくまでも一定の距離を置きたい、というスタンスを取り続けたかったのでしょう。

英国離脱は当然ながらユーロ存続の議論を生み出すきっかけに繋がります。それは欧州の解体的出直しに繋がらないとも限りません。考えてみれば大陸はドイツがその帝国的基盤を作り続け、フランスはより色が無い国と化しています。が、そのドイツもメルケル首相の力量によるバランス感覚があったわけですが、同首相も次期はないだろうと見られています。そうなると英国離脱で一番困るのはユーロ圏、そして、それをテコに有利に展開しやすいのは英国ということになるシナリオは大いにあり得るとみています。

但し、世界経済全体で見れば英国やEUの不安定化はドル基軸経済が再び強まることを意味し、円は当然ながら安全資産としての輝きを増してしまうストーリーでしょう。日本にとっては短期、中期的には美味しくない結果をもたらしそうです。

破壊的改革の選択をするのか、不完全なシステムを温存するのか、遠くない時期に大きな選択をすることになりそうです。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 2月23日付より