サウジの若者たちが希望を失う時 --- 長谷川 良

2016年02月23日 11:30

昔の話だが、当方は2001年2月27日、ウィーンの国連内でサウジアラビアのトルギ・サウド・ムハンマド・アル・サウド王子とインタビューをしたことがある。王子と会見するのは初めだったので最初は緊張したが、会見をアレンジしてくれた知人のサウジ外交官が「君、わが国には1000人以上の王子がいるよ」と説明してくれたので、「ああそうか」と急にリラックスしたことを思い出す。テーマは宇宙問題だったが、その内容は残念ながら忘れてしまった。サウジの各王子はそれぞれ自身の特定分野を担当して国家に貢献しているという。アル・サウド王子は当時、サウジ王立宇宙調査研究所所長だった。

あの時のサウジはいい時代だったのだろう。サウジで最近、失業者の若者が増えているという記事を読んだばかりだ。その主因は2014年6月以来続く原油価格の暴落だ。当時1バレル100ドル以上だったが、現在は約30ドルと3分に1に急落した。国家予算の90%が原油輸出からの外貨収入で賄われているサウジの国家の台所事情は大変だ。

サウジでは学校教育から病院まで全て無料だ。原油輸出から入る豊富な財政はそれらを可能にする充分な収入があった。1000人以上の王子たちは政府から資金や補助金を貰い、与えられた分担で努力しておけばそれで良かった時代だ。

 “3K”の仕事は海外からの出稼ぎ外国人に委ね、技術や医療分野は欧米からリクルートした人材に委ねてきた。だから多くの国民は生活の為に仕事をするということはなかった。ちなみに、2013年、外国人出稼ぎ組は約900万人と推定されていた。

しかし、原油価格が暴落することで国家財政は火の車となってきた。同時に、サウジ王室関係者と国民との間で格差も見えだしてきたのだ。

ウィーンにはサウジが投資して設立された国際機関「宗教・文化対話促進の国際センター」(KAICIID)がある。同国際センターは2013年11月26日、サウジの故アブドラ国王の提唱に基づき設立された機関で、キリスト教、イスラム教、仏教、ユダヤ教、ヒンズー教の世界5大宗教の代表を中心に、他の宗教、非政府機関代表たちが集まり、相互の理解促進や紛争解決のために話し合う世界的なフォーラムだ 。その為にサウジが全額出資した。原油価格が1バレル100ドル以上の時代だったから可能だったプロジェクトだ。1バレル30ドルの今日、いくら気前のいいサウジでもウィーン市の一等地に豪華な建物を運営していく資金を捻出するのは容易ではないだろう。

サウジは16日、ドーバーで原油輸出国のロシア、カタール、べネズエラと原油価格の暴落を阻止するために協議し、原油生産を1月の水準で凍結することで合意したが、遵守されるかは不明だ。国際社会の制裁から解除されたイランが1月以来、本格的な原油輸出を開始したばかりだ。

サウジ人口は約2900万人だが、その3分の2は30歳以下の若い世代だ。アラブの民主化を進める“アラブの春”が到来する前に、サウジでは国民経済の冬の時を迎えているのだ。失業者が増加し、若い世代が将来に希望を失ってくると、国内の治安は悪化する事態が十分考えられる。サウジはイスラム教スンニ派でも厳格な教えを説くワッハーブ派だ。国内には10%以上のシーア派もいる(「サウジ王室内で世代抗争が進行中」2016年1月9日参考)。

原油輸出から来る豊富な外貨で豊かな生活を享受してきたサウジ国民にとって経済の冬の到来は初体験だろう。国民の7割が国家公務員という国だ。

国内の失業対策の一貫として、サウジは海外からの出稼労働者の制限に乗り出してきた。原油価格が今後も低落するようだと、サウジ王室は体制存続の危機を迎える可能性も排除できなくなる。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年2月23日の記事を転載させていただきました(編集部でタイトル改稿)。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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