輸入学説で暮らす経済学者の怠慢 --- 中村 仁

2016年02月24日 06:00

Karl_Marx
▲日本の経済学者は欧米学説の輸入偏重 !?
(写真はマルクス、Wikipediaより、アゴラ編集部)

日本独自の研究成果を示せ


物理、化学、生理・医学などでは、日本人研究者も独創的な研究でノーベル賞を受賞しています。経済学ではどうなのでしょうか。現代の世界に大きな警鐘を鳴らす日本発の提言、学説がほとんど見当たりません。まるで経済学説の輸入業であり、経済学が翻訳業みたいですね。

経済専門の日経新聞の売り物である「経済教室」を日ごろ、愛読しています。第一線で活躍している経済学者の多くが執筆していますので、日本の経済学の方向性、レベルも観察することできます。格差拡大の中での脱デフレ、金融政策の効果と限界などで、経済学が果たすべき役割が大きい時代になりました。

先日、「経済教室」の「エコノミクス・トレンド」を読んで絶句しました。慶大の教授氏が書いた「格差拡大は成長に悪影響か」(2月22日)に関心を持って読み始めたところ、欧米の経済学者や研究者が10人以上も登場し、記事のほとんどが彼らの研究の紹介です。ご自身含め、日本人の研究成果はどこにも見当たりません。経済学における日本の存在感は乏しいのですね。

日本人学者の出番ではないのか


経済、社会的な格差拡大は悩みの深い病です。米大統領選の指名候補争いでも格差問題に焦点があてられ、イスラム・テロでも格差問題が背景にあり、日米欧の中央銀行による超金融緩和が格差拡大を招いているとされる時代です。当然、日本人経済学者の出番でもあります。

この教授は「格差是正と経済成長について、従来の常識を覆す研究結果」が各方面からなされていることを紹介しています。「格差是正は適切に進めれば、経済成長を阻害しない、むしろ成長率を高める」とのことです。さらに、「過去30年、大半のOECD諸国で所得格差が拡大し、これが経済成長を抑制している」。「金融危機による大きな格差拡大が長期停滞の原因ではないかとする研究成果もある」。「日米欧では金利がゼロ近辺で、金利政策は効かなくなっている。再分配政策で格差を是正すれば、金融政策は効果を取り戻せる」などなど。

この記事は、パリのピケティ教授のベストセラー「21世紀の資本」から書き出します。さらにロンドンのディナルディ教授、ハーバード大のサマーズ教授、プリンストン大やシカゴ大、ニューヨーク大の教授らが登場します。サマーズ教授は経済の長期停滞説(金融政策には限界がある)で注目されましたね。とにかく欧米の学者ばかりです。

東大も慶大も学説の紹介業


少しさかのぼって、東大のY教授による「エコノミクス・トレンド」(14年7月)は、サマーズ教授の長期停滞説の説明から書きだし、「潜在成長率が低下している」と、その要点を紹介します。別の米国人教授の説としては、「かなりの作業をコンピューターが代替し、労働者の多くが機械との競争に負けている」ことを紹介し、雇用のミスマッチが停滞の原因になっているとします。残念ながら、記事のほとんどは、米国人学者の研究成果です。

日本の経済学者は「日本が成長の停滞から抜け出すには、民間におけるイノベーション(技術革新)を進め、独創的な製品開発をしていかなければならない」と、日ごろから口をそろえます。では、経済学者自身が独創的な経済研究をしているかといえば、そうではないのですね。

ピケティ教授が2,30か国、2~300年に及ぶテータを分析して格差問題に警鐘を鳴らしたときも、日本人学者の多くは「日本には必ずしもあてはまらない」、「格差是正のための国際的な税制改革の提言は現実的ではない」などと、いいました。それなら対抗できるような学説を提言すべきなのに、そうではなかったのですね。教授はマルクスの「資本論」を意識して書いたといわれます。

大胆な問題提起が必要


サマーズ教授の長期停滞説についても、「金融緩和に依存した需要刺激策にはリスクがある」、「米国の低迷は裏づけられていない。日本こそ深刻である」などの指摘をしました。日本の経済学者は注文ばかりつけるのではなく、スケールの大きな学説をなぜ掲げてみないのでしょうか。

黒田総裁は「消費者物価が2%上昇するまで、マイナス金利を続ける」と、国会で断言しました。そんなことを国会で約束してしまっていいのですかね。金融政策を偏重する経済モデルがどのような結果を招くのかを経済学者は掘下げ、大きな問題提起をしたらどうでしょうか。学説の輸入業、翻訳業などに満足している時ではありません。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社の社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年2月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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