メルトダウンって何?

池田 信夫

福島の原発事故から5年たっても、「メルトダウン」という言葉をめぐって誤解があるようです。NHKニュースまで「[東電の]社内のマニュアルでは事故の3日後にはメルトダウンと判断できたことを5年近くがたった先月、明らかにしました」と言っていますが、これは誤報です。アゴラの記事にも書いたように、東電の社内マニュアルには「メルトダウン」という言葉はありません。

そもそもメルトダウンというのはマスコミ用語で、専門用語としての炉心溶融に当たる本来の英語はcore meltですが、これは原子炉の中の燃料棒が溶けることを意味するだけです(機械工学英和和英辞典)。それに対してmeltdownという言葉には正式の定義はありませんが、Wikipediaによれば

  1. 冷却水が失われて燃料棒が空だきになり
  2. 制御棒が挿入できずに緊急停止に失敗し
  3. ECCS(緊急炉心冷却装置)が作動せず
  4. 燃料棒が過熱して2700℃(鉄の融点を上回る)以上になり
  5. 溶融した核燃料が圧力容器を貫通して格納容器に漏れ出し
  6. 格納容器も貫通して外部の地下水などと反応して水蒸気爆発し、
  7. 原子炉を破壊して高温の放射性廃棄物が大気中に出て周辺に降り注ぐ

という深刻な事故をさすのが普通です。福島では緊急停止してECCSが作動したので3の前で止まったのですが、電源がなくなったため冷却水が過熱し、それを意識的に排出するベントで放射性物質が外気に出たので、メルトダウンとは違うタイプの事故です。

キャプチャ左の図は福島第一の1号機の今の状態です。燃料が溶けて圧力容器を貫通し、格納容器を溶かしたままデブリと呼ばれるかたまりになっていますが、格納容器の中には収まっています。

1979年のスリーマイル島の事故は4の段階で止まっており、圧力容器は貫通しなかったので、NRC(原子力規制委員会)は「メルトダウン」ではなくLOCA (Loss Of Coolant Accident)と呼んでいます。福島の場合は溶融した燃料が圧力容器を貫通したので、スリーマイル島より深刻ですが、格納容器の中には収まっているので5の段階で止まっています。

福島の他の原子炉もおおむねこういう状態で、しいていえばLOCAは起こったがmeltdownには至らなかったというところでしょう。しかしマスコミは悪いニュースが好きなので問題を大げさに騒ぎ、役所や東電もそれに妥協して「メルトダウン」という言葉を使うようになったのです。

「わからないときは危険な場合を想定する」というのは災害対応の原則ですが、災害報道の原則は「わからないときは誇大に騒がない」ことです。特に原子力の場合は、朝日新聞が「プロメテウスの罠」などで放射能デマを流したため、被災者に恐怖が刷り込まれてしまい、いまだに原発周辺の町には1割も住民が帰ってきません。

原発第一の内部はまだ危険な状態ですが、外部に影響を与える可能性はなく、周辺でも普通に生活できる状態に戻っています。5年という区切りをきっかけに放射能デマを清算し、もとの町に戻す必要があります。