障害者の社会進出で労働市場は変容する

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前列中央、橋本久美子氏(橋本龍太郎元内閣総理大臣夫人)、右から四番目が森田隆行教頭。

最近、障害者の社会進出の話題が熱をおびています。障害者の就労について考えて見ましょう。今回は、南魚沼市立総合支援学校で障害者の社会進出を支援している森田隆行教頭に話を伺いました。

●個の特性を把握して社会進出を促す

—現在、取り組んでいる活動について教えてください。

森田隆行教頭(以下、森田) 皆さまは、ノーマライゼーションという概念をご存知でしょうか。ノーマライゼーションは、デンマークのバンクミケルセンによって提唱された概念です。「障害者と健常者とは、お互いが特別に区別されることなく、社会生活を共にするのが正常なことであり、本来の望ましい姿(あるべき姿)である」とする考え方です。

「あるべき姿」とは、本来そうなっていて当然の状態をあらわします。私は、障害者支援の重要な目的は、社会進出であると考えています。社会進出を支援する取組みとして、「MSGカフェ」という南魚沼市図書館内のカフェを運営しています。中等部と高等部の生徒たちがカフェのスタッフとなり、地域の人と交流することで、社交性を高め社会参加を促しています。多くの市民との交流から接客の楽しさやサービスを学ぶことで社会進出の意識を高めることを目的にしています。

—障害者の社会進出に重要なポイントは?

森田 障害者の得意な分野、苦手な分野を把握することです。そのうえで何をやりたいのかを明確化させて取組むことが大切です。積極的な取組みによって本人の自信につながり、社会参加の意識が高まるからです。「障害者だから働くことは難しい」と決めつけるのではなく、自分の特性に合った仕事を見つけることが大切です。

●地域のなかで存在意義を確認する

—いまの取組みの評価を教えていただけますか。

森田 当初から、図書館に来た市民との交流からは、多くの学びや変化あると予想していました。従来の障害者教育には偏見という見えない壁が存在しましたが、積極的な交流により偏見が軽減されて理解が深まると考えていたからです。

また、MSGカフェの評判が高まれば、美味しいコーヒーやクッキーを味わいたいと思う人が増えてくることや、図書館の活性化にもつながると考えていました。そのため、接客マナーのレベルの向上には約1年間をかけて準備をしてきました。笑顔で挨拶をして心を込めて接客することなど、お客さんが来てよかった思われる接客を目指してきました。

お陰様で、行政の理解や支援も相まって、地元でも評判のカフェとして評価をいただくことができました。カフェでは、コーヒーの豆挽き、パックへの袋詰め、包装、パッケージングデザインなど、すべての作業を生徒がしています。接客レベルや、スタッフの笑顔が評判となり、来店客も増えたことから当初の目的は達成することができたように思います。

●ノーマライゼーションは実践がすべて

—これまで多くの紆余曲折があったのではありませんか。

森田 一般的に、障害者に対する理解は高まりつつあると感じていますが本質的な議論が活発とはいえません。障害者支援は実践をすることで初めて身につくものであり、机上の空論ではなにも解決しないからです。

そのためには、多くの人が中途半端な知識や経験ではなく実践することで、きちんとした見識を身につける必要があると思います。正しい見識を身につければ障害者に対する偏見は無くなるはずです。例えば、以前は特別支援学校も市内から遠いところに建設していたため、交流が活発だったとはいえない時期もありました。当校はこれらの教訓から、地域の方との交流を活発化させるために、市の中央に位置しています。私たちは、「地域の方たちにドンドン学校に来ていただきたい」と発信しています。

南魚沼市の人口は約6万人(推計人口58,920人/2015年5月1日)です。私たちの生活の中心である、米づくりや、雪に関する産業は、他者との交流や人間関係の協力が必要とされます。また、障害者が地域コミュニティのなかで確立した存在になるにも、交流の質と量が必要です。南魚沼市は、互いの交流を通じて関心を高めていく土地柄なので、良いモデルケースになるのではないかと思います。

—ありがとうございました。

MSGカフェに行けば、ノーマライゼーションの本質に気づかされることだろう。スタッフの笑顔とマナーには感動すら覚える。そこには、障害者と健常者の見えない意識の壁はもはや存在しない。次回、機会があれば、森田教頭お薦めのドリップバッグコーヒー試してみようと思う。

尾藤克之
コラムニスト
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