IAEAの核関連技術の平和利用 --- 長谷川 良

2016年03月09日 10:30

ウィーンに本部を置く国際原子力機関(IAEA)は7日から定例理事会(理事国35カ国)を開催中だ。そこではイランの核合意の履行状況、北朝鮮の核実験問題などのほか、福島第一原発事故5年目の総括などが主要テーマだ。今回はそれだけではない。ブラジルなど中南米諸国で感染が広がるジカ熱対策への貢献についても報告された。

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▲IAEAのジカ熱対策の関連写真(IAEAのHPから)

天野之弥事務局長は7日午前、冒頭声明の「Nuclear Applications」の中でジカ熱対策に言及し、IAEAの核関連技術の適応を説明し、核の平和利用というIAEA本来の目標を改めて強調している。

We are providing portable equipment that will allow for rapid detection of the Zika virus in the field, and training our local partners in how to use it. The same nuclear-derived technology was made available by the Agency in 2014 to help countries in West Africa respond to the Ebola virus outbreak.

世界保健機関(WHO)は2月1日、中南米で拡大している感染症ジカ熱の流行について、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言し、妊娠中の女性が感染地域に渡航する際の注意を呼びかけ、各国に感染拡大の阻止に向けた対策強化を求めたばかりだ。

それを受け、IAEAは2月2日、ジカウイルスを媒介する蚊の繁殖を抑えるため、放射線で蚊の不妊化を進める技術(Sterile Insect Technique)の移転を明らかにしている。IAEAによれば、放射線照射による不妊化は人や環境にも安全な技術という。

天野事務局長は歴代事務局長とは異なっている。天野氏は2009年12月の事務局長就任直後、最初に取り組んだテーマはイランの核問題でも北朝鮮の核問題でもなく、開発途上国のがん対策問題だった。

事務局長就任最初の外国訪問先ナイジェリアでは、主にがん対策への核医療問題で意見を交換している。同事務局長は当時、「がんで死亡する患者数は現在、エイズ、マラリア、結核で死亡した人を合わせたより上回っている。その大部分は開発途上国の国民だ」と指摘し、開発途上国への核医療の啓蒙を訴えている。

具体的には、「ガン治療のためのIAEA行動計画」(PACT)は「胸部健康グローバル・イニシャティヴ」(BHGI)と共同で開発途上国のガン医療を促進している。IAEAは2004年、PACTを設立し、WHOや他の国際機関と連携してがん治療の包括的対策の確立を支援してきた。ちなみに、IAEAはこれまで115カ国で放射線治療機材を供給し、専門家の訓練を支援してきた(「IAEAのもう一つの顔」2012年2月4日参考)。

また、西アフリカのシエラレオネで2014年、エボラ出血熱(EVD)が猛威を振るうと、IAEAはEVDの迅速な診断を下せる逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)関連技術の利用促進を支援した。

IAEAと国連食糧農業機関(FAO)は連携して核関連技術を利用したRT-PCRの開発に努力してきた。この技術を利用すればエボラ出血熱のウイルスの有無を数時間で診断できる。従来のやりかたでは診断が下されるまで数日間がかかった。迅速に診断できるようになれば、感染者の生存率を改善し、もちろん犠牲者の増加を防止できるからだ。IAEAは、RT-PCR機械、冷却システム、生物安全機材、診断装備などをシエラレオネなど感染国に供給している(「エボラ出血熱の迅速な診断を」2014年10月16日参考)。

天野事務局長は「IAEAの職務をイランや北朝鮮の核問題にだけに縮小しないで頂きたい」と語り、核関連技術の平和利用に意欲を示している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年3月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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