トレードオフって何?

マンキューの『入門経済学』の最初に「経済学の10大原理」というのが書いてあって、そのトップは「人々はトレードオフに直面している」というものです。このトレードオフということばは日本語にうまく訳せず、しいていえば「あちら立てればこちらが立たず」とか「二律背反」という感じでしょうか。

日本語にないということは、日本人がこの考え方を理解してないことを示しています。たとえば今週、大津地裁の山本裁判長は高浜原発3・4号機の運転を差し止める仮処分決定をしましたが、これは「新規制基準がよくわからないから不安だ」ということを理由にしています。

たしかに4万ページの審査書類をろくに読まないで、4回の審尋だけで決めたのだから、「よくわからない」のは当然のことです。しかし高浜4号機を止めるだけでも、関西電力には1日5億円の被害が出るので、関電は5月の値下げを見送ることを決めました。

この仮処分は(福井地裁のように)抗告審で却下されるものと思われますが、それまでに半年かかるとすると、今回は現実に動いている原発を止めたので、関電は5億円×180日=900億円の損害賠償を原告に要求できます。

つまり山本裁判長の「不安」を解消するコストは、1日5億円かかっているのです。図で描くとこんな感じで、赤い曲線がトレードオフの関係を示しています。

tradeoff

原発を止めると電気代が上がり、関西の電力利用者の経済的な損害になります。関電は原子力規制委員会の決めた規制基準に従って、この曲線の真ん中あたりで運転したのですが、大津地裁は右端のゼロリスクの解を選んだわけです。

これによって反原発派は安心するでしょうが、関西のみなさんの損害は最大になります。専門家が今まで2年以上、話し合って決めたことを、原子力技術に素人の裁判官が簡単にひっくり返していいんでしょうか? 関西の人々は毎日5億円も損して平気なんでしょうか?