老人対策より新生児対策を優遇しよう --- 中村 仁

2016年03月14日 16:00

育児断念の赤ちゃんを養子で救う

まず始めに。「保育園落ちた日本死ね」のブログ騒ぎは、ブログを批判した側の部が悪いようですね。待機児童の解消の遅れに不満を持つ世代の巨大な共感が瞬く間に広がりました。火付け役になった張本人の安倍首相もまずいと気づき、政権として子育て支援対策を強化することになりました。批判も多かったこのブログは結局、育児政策の推進に貢献しつつあります。

 

首相が「匿名なので確かめようがない」など、正直すぎる発言をしていなかったら、待ち構えていた野党も責めあぐねたはずです。ネット社会の情報の広がり方に無用心で、育児世代の神経を逆なでする態度は問題でした。ちょっとしたことから、火がつくネット社会は怖いですね。

 

ブログ騒ぎはこのくらいにして、育児問題では、「保育園に落ちた」より、もっと悲惨な目にあっている児童、幼児のことを考えたいのです。親から虐待を受けた子供らが施設で一時保護される件数は年2万件を超え、増え続けています(12日の読売新聞)。さらに幼児をウサギ小屋に閉じこめた、天井に向け放り投げた、ゴミ箱に投げ入れたなどの報道は連日です。

 

特別養子縁組という救済策

 

高齢者は飲み切れないほどの薬をもらうなど、多額の医療費が無駄に使われています。その一方でミルクさえ満足に飲ませてもらえない赤ちゃんはたくさんいます。ほとんどおカネをかけずに、こうした赤ちゃんを救う方法があります。どうしても赤ちゃんがほしいという夫婦に、特別養子縁組という形で引き取とってもらうのです。

 

知人の体験談をお話しましょう。経済的な貧困から育てられない、予期しない妊娠で出産した、親に育児意欲がそもそもない、などの境遇にいる赤ちゃんを救うのです。そのままにしておけば、育児放棄か虐待で命を落としかねない赤ちゃんたちです。安部政権が看板に掲げているの希望出生率1・8の実現に向け、足元でできることのひとつです。人道的、倫理的にも必要なことです。

 

赤ちゃんの縁組を斡旋する事業者は、全国で15団体ほどあるそうです。人工中絶に疑問を持つ産婦人科医ら約200人が参加、協力しています。日本ではまだ広がりをみせておらず、年間500人ほどしか縁組は成立しておりません。米国は5万人です。広げる余地は大きいのです。

 

受け皿になる夫婦は増加

 

所得格差の拡大で育児を断念する夫婦が増えている一方、赤ちゃんに恵まれない悩みを抱えている夫婦も増えているようですね。高いおカネを払って不妊治療を受けたもののうまくいかなかったたちです。ある程度以上の所得があるし、育児のためなら負担をいとわない夫婦です。必ずしも希望通りの組み合わせとならなくても、宝もののようして、大きな愛情も注ぎます。赤ちゃんからすると、地獄と天国の違いがあります。

 

1970年代に中絶を望む女性を説得して、出産させ、養子として斡旋した菊田医師(仙台)が始めましたね。縁組の世話をしているNGOのホームページには、「産んで下さい大切な命、輝く未来の宝物。予期しない妊娠で妊娠でお悩みの方と赤ちゃんをお守りし、温かい家庭への養子縁組を斡旋、仲介します。悩まずにご相談ください」とあります。

 

出産費用、出産後に2週間ほど世話してくれる人の費用、交通費などの実費はかかるそうです。正当な手続きを経て養子縁組が進められたのかを、裁判所が自治体の児童福祉課の協力も得てチェックし、最終的に確定書をだす仕組みですね。すべてが終了した時になってはじめて、NGOの活動費として、育ての親が寄付金を気持ちに応じて自主的に払います。要するに公費、税金はかかりません。

 

出産後、早期に育ての親の手に

 

出産後、できるだけ早期に育ての親の手に移したほうが、何年かして施設経由で引き取られるより、幼児の成長にはいいようですね。成長してから「自分は実の親と育ての親が違う」と悩むことありえましょう。そうした問題に対する経験も蓄積されているそうです。

 

育ての親同士が集まり情報を交換する、新生児を迎えた家庭を子供連れで相互訪問する、子供連れで一緒に動物園に行く。そうした機会に「あなたと同じ境遇の仲間はたくさんいるのよ」と、教えていくのだそうです。NGOが新生児を届けにくるときは、最寄りの駅に仲間が子供連れで出迎え、自分の子供に「あなたもこうして迎えられたのよ」と、教えるそうです。

 

「問題のある斡旋事業者は排除されているのか」、「金銭の支払いが無理強いされていないか」、「経過観察の期間を欧米並みに短縮できないか(日本は数ヶ月)」、「困った産みの親に対し、縁組制度の存在をもっと周知できないか」。日本ではまた抵抗もあるようで、今後の課題はたくさんあるようでしょう。それを乗り越えていけば、中絶(年間20万から40万人)や育児放棄を防げ、出生率の引き上げに役立つでしょう。

中村 仁
読売新聞で長く経済記者として、財務省、経産省、日銀などを担当、ワシントン特派員も経験。その後、中央公論新社、読売新聞大阪本社の社長を歴任した。2013年の退職を契機にブログ活動を開始、経済、政治、社会問題に対する考え方を、メディア論を交えて発言する。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年3月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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