訪日外国人の6000万人目標への疑問

政府は訪日外国人の目標を2020年に4000万人、2030人に6000万人に「上方修正」しました。数字以上に社会全般に様々なインパクトがあるかと思います。

2015年の訪日外国人が1974万人と前年比47%増で推移していることから今後もこのペースを維持し、4000万人、6000万人という水準に引き上げることで経済に刺激を与える計画であろうことが読み取れます。

訪日外国人が増えることのメリットは宿泊、観光、消費を通じた経済の活性化でしょう。2014年のデータでは一人平均15万円費消し、平均滞在期間は11.7日、外国人の総支出額は2兆円(2015年は3兆4700億円)でありました。

平均滞在日数をベースに計算すると2000万人の訪日客は日本の人口が64万人増えたことと同じ効果があり、4000万人なら128万人、6000万人なら190万人となります。しかも社会保障費がかからずお金を使うポジションの方が主流です。費消額は一日当たり12800円ですから確かに数字上の経済効果はあります。

ただ、この目標を聞いて手放しで喜ぶばかりでもない気がいたします。

まず、訪日外国人が行くところは割と決まっています。つまり、メリットを受けるところと全く関係ないところの濃淡がはっきり出ることです。確かに最近の訪日客は日本人が知らないようなところや見向きもしないようなところを見つける傾向がありますので一概には言えないと思いますが、これは否定はできないでしょう。

2010年にバンクーバーで冬季五輪があった際、観客が来るエリアが非常に狭いエリアに限定され、多くの外国からの観戦客は地元のごく限られたところにしかお金を落とさなかったことで強い不満が出たことがあります。似たような状況は想定されると思います。(もっとも、訪日外国人に振り回されたくないと思う日本の方も多いと思いますが。)

二番目にあまりにも多い訪日客は国内経済の不活性化を招きやすくなります。例えば出張者の宿泊先が確保できない、宿泊料金が以前に比べ5割以上も上がるなど日常茶飯事的に起きており、出張回数の減少やビジネス客の減少を招くこともあるでしょう。訪日外国人客のマストアイテムであるジャパンレールパスではJRを使って乗りまくるわけで、ひかり号は外国人御用達列車となっています。

私はそれ以上にこの目標自体が達成可能なのか、疑問視しています。一つには男女比で男性が55%で多いという傾向、もう一つは20代、30代という若者が6割を占めるという点でそれほど消費の懐が大きいとは思えないのであります。多くの爆買いはツアー客だと思いますが、あれは物珍しさと海外旅行自慢の買い物で日本人も80年代ごろに海外で爆買いしていたのと同じです。

世の中、ある程度成熟してくると買い物よりも違うものを求めます。また、日本人が昔、海外で土産の代名詞としていたアイテムの一つ、免税の酒は流通の改善で今や、日本で買った方が安く、誰も重い酒瓶をぶら下げる人はいません。同じことは海外でも起こりうるでしょう。

とすれば政府は今と同じ形態で観光客を誘致してもどこかで息切れしてする公算があり、本気で誘致したいのなら魅せ方を変えなくては飽きられてしまいます。

本気で外国人を経済活性化のテコにしたいのなら、リピーターと長期滞在者、及び学生を受け入れる対策を打った方がよいと思います。

なぜ、ロンドン、パリ、ニューヨークは観光客が多いのか、その一つに芸術があります。ミュージカルや美術館など何度見ても嬉しくなるような高い文化価値があることが重要です。例えば日本の美術館はコレクションが少ないのでいつも海外の美術館から借り受けることが多いのです。ミュージカルや観劇は当日や直近でチケットが取れることはまずありません。それら観劇ができる場所も東京ならあちらこちらに散らばっていて大変わかりにくくなっています。

長期滞在者や海外学生はシェアハウスで宿泊設備の対応が可能です。やはり、駆け足で日本中を駆け巡る旅行を促すより日本と対話できるような訪日客を増やすようなセンスが必要だと思います。買物させてうまいものを食べさせて、お金を落とさせる発想ではラスベガスのような味気ないものになってしまうでしょう。

昔、私の知り合いがアメリカで七宝焼きを教えていて非常に人気を博していました。こういう味が日本の本来魅せたいところではないでしょうか?なんでも数が勝負ではないと思います。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月31日付より