米中特殊部隊の「金正恩暗殺」争い

2016年04月06日 11:30

米韓両軍は先月から北朝鮮の核・ミサイル施設への先制攻撃も念頭に置いた軍事演習「5015」を展開中だ。「5015」は、北朝鮮による韓国侵攻を想定した「5027」や、北朝鮮の急変事態に対応する「5029」などを総合した作戦計画で、昨年6月に米韓が立案したもので、北の最高指導者・金正恩第1書記の暗殺も排除していないという。

韓国空軍が先月21日、北朝鮮の重要施設を精密攻撃する模擬訓練を実施すると、北の対南窓口機関「祖国平和統一委員会」は3月23日、「青瓦台(韓国大統領府)を一瞬に焦土化する」と報復攻撃を示唆。それだけではない。米本土への先制攻撃すら辞さない強硬姿勢を表明してきた。

米韓軍の史上最大の軍事演習と北側の核攻撃警告が飛び交う中で、いま密かに流れている情報がある。中国人民軍特殊部隊が金正恩氏を暗殺するというシナリオだ。以下、それを少し説明する。

米精鋭海兵部隊は2011年5月、国際テロ組織アルカイダの首謀者、オサマ・ビンラディンを暗殺した。その直後、米国は核開発計画を放棄しない北の指導者も同じように奇襲で暗殺するのではないか、といった声が囁かれたものだ。

軍事先制攻撃は、他の手段がなく、時間が差し迫っている時、有効な手段だ。北問題では、①核の小型化、②核兵器運搬手段の長距離弾道ミサイルの製造、③潜水艦攻撃力の強化などが現実化してきた時だろう。

そして米韓が「戦略的忍耐」を実施している間、北は核実験を繰り返し、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行っている。北の大量破壊兵器が米国大陸に届く日が確実に近づいている。

米国の動向に神経を使う金正恩氏はここにきて米国本土も核兵器で破壊すると言いだした。国際社会は金正恩氏の警告を単なる強がりと受け取っている。米韓は北が核兵器を使用する気配が見られた先制攻撃も辞さないと警告を発している。

ところで、金正恩氏が核兵器に手をかける気配があった場合、北指導部の壊滅作戦を計画しているのは米特殊部隊だけではないのだ。中国人民解放軍特殊部隊だ。多分、彼らの一部は既に北内部に潜伏しているだろう。そして、金正恩氏が核兵器に手をかけようとしたら、北京は即、金正恩氏の暗殺命令を下す。このシナリオの場合、北京側はポスト金正恩の後継者を既に準備しているとみて間違いないだろう。すなわち、金正恩氏暗殺で米国と中国が密かに競っているわけだ。

考えてみてほしい。米中両国にとって金正恩氏の暗殺で国際社会から批判を受ける危険性は非常に少ない。むしろ、世界はやっと静かに安眠できるというわけで、称賛の声すら上がるかもしれない。オバマ米政権にとっても中国現体制にとってもマイナス要因が少ない選択肢といえるわけだ。

問題は、金正恩氏暗殺は米国より中国により好ましい選択となるかもしれないことだ。米海兵部隊が金正恩氏を暗殺した場合、朝鮮半島の将来に対する主導権を米韓両国が握るが、中国側が米海兵隊より先に金正恩氏を抹殺した場合、国際社会から称賛されるばかりか、朝鮮半島の将来に対して中国は強い発言権を確保できる。北京側は金正恩氏抹殺直後、北京寄りの後継政権を発足させるだろう。

それだけではない。中国軍特殊部隊の金正恩氏暗殺は日本の外交にとってもマイナスだ。尖閣諸島の領有権で中国と対立する日本は、金正恩氏を暗殺し、国際社会から認知を受けて自信を深めた中国と対峙することになるからだ。すなわち、中国側は金正恩氏暗殺で朝鮮半島の主導権を握る一方、尖閣諸島の領有権問題でも有利な展開が期待できるわけだ。中国側にとってマイナスは少なく、プラスが多いのだ。

年末に大統領選を控える米国は大きな外交政策を決定できる余地が少ない。対北政策ではどうしても腰が引けてしまう。米国の外交政策の隙間を衝いて、中国が金正恩氏暗殺というカードを切った場合、米国はその後の朝鮮半島の行方について、中国主導の路線を追従せざるを得なくなるのだ。

習近平主席の対北政策は2012年就任後、国際社会の除け者・北朝鮮と距離を置く政策を取ってきている。中朝は血で固められた友誼関係と言われた時代は江沢民元国家主席から胡錦濤・温家宝体制までで終焉し、習近平主席時代に入り、中朝関係は明らかに冷えている。

習近平主席は金正恩氏が激怒に駆られ核のボタンに手を掛けようとする時を心待ちにしているのではないか。その時、中国は北の異端児を抹殺できるだけではなく、国際社会から中国外交の認知を受け、先述したような外交成果も得ることが出来るわけだ。習主席が躊躇する理由はない。金正恩氏が最も恐れているのは米精鋭海兵部隊の襲撃ではなく、実は中国人民解放軍特殊部隊の奇襲なのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

 

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