コール元首相は何を考えているか

ドイツ再統一の貢献者、ヘルムート・コール独元首相(86)が今月19日、ハンガリーのオルバン首相の訪問を受けるという。独週刊誌シュピーゲル電子版が日刊紙ビルト紙の情報として報じた。重病説が頻繁に流れてきたコール氏が突然、政治活動を再開した、ということでドイツ政界では驚きの声が上がっている。

Kohl
▲コール元首相(独連邦政府保管から)

ハンガリーのオルバン首相と言えば、欧州連合(EU)でも異端者と呼ばれれ、ブリュッセル主導の政治には頻繁に反発してきた政治家だ。特に、欧州に北アフリカ・中東から難民・移民が殺到した昨年、メルケル独首相の難民受入れ歓迎政策を激しく批判し、難民受入れを拒否し、対セルビア国境に壁を設置した最初のEU首脳だ。同首相にとって、欧州の難民問題はドイツの問題だといって憚らない。

ちなみに、メルケル首相の難民政策を批判してきた独バイエルン州のキリスト教社会同盟(CSU)のホルスト・ゼ―ホーファー党首は3月4日、ハンガリーのブタペストを訪問し、オルバン首相と会談し、厳格な難民政策で意気投合している。

そのオルバン首相をコール元首相はルートヴィヒスハーフェン・アム・ラインの自宅に招いたことが明らかになると、元首相の狙いに対してさまざまな憶測が流れているわけだ。コール氏はビルト紙とのインタビューで「オルバン首相は生粋の欧州人だ」と高く評価しているという。

ハンス=ディートリヒ・ゲンシャー元外相が先月31日、89歳で亡くなったが、コール元首相は同元外相と共に東西両ドイツ再統合(1990年)に寄与した立役者だ。政界から引退後、コール氏は隠居生活に入っている。自叙伝出版で著者と対立したことがメディアで話題となったぐらいで政治的には静かな隠居生活だった。再婚した奥さんが、コール氏へ好ましくない人物が接近しないように管理している、といった噂が流れたこともあった。

シュピーゲル誌によると、与党・キリスト教民主同盟(CDU)のペーター・タウバー事務局長は、「コール氏は確信を持った欧州人だ、だから、何も心配していない」と強調、メルケル首相のステファン・ザイベルト報道官は、「コール氏は誰と会うか全く自由だ」と述べ、冷静を装っている。

なお、コール元首相はクロアチアのミロ・コバチ外相の訪問を受けている。同外相もオルバン首相と同様、難民政策ではメルケル首相の路線を批判している一人だ。

メルケル首相はコール政権下で成長していった政治家だ。メルケル首相はコール政権時代に婦人・青年担当相に抜擢されたのを皮切りに、環境相などを歴任。2005年にメルケル首相が政権を発足するまでコール元首相の愛弟子と呼ばれてきた。

そのコール元首相がメルケル首相の難民政策を批判するEU政治家たちを自宅に招き、会合するということは何を意味するのだろうか。考えられるシナリオは、①メルケル首相の難民受入れ政策にEU統合を政治課題として取り組んできたコール氏が危機を感じ出している、②自身の愛弟子メルケル首相を背後支援するため反メルケル派政治家を招き、説得工作を展開している、などが考えられる。

いずれにしても、冷戦時代を取材してきた当方は、コール氏の名前を独メディアで発見して懐かしさを感じている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年4月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。