自民党のメディア戦略って「最強」なのか?

2016年04月11日 06:00
メディアと自民党 (角川新書)
西田 亮介
KADOKAWA/角川書店
2015-10-24

 


どうも新田です。“東工大のエグザイル”こと、著者の西田センセとは都知事選でイザコザがあったので(その顛末は切込隊長のブログで)、率直に言って、彼のことは今でもキライです。しかし“悪人”でも“良書”は書ける(笑)。個人的な感情は一度手放し、本書のテーマである自民党のメディア戦略と、メディアと政治を取り巻く問題をちょっくら考えてみましょうか。

「ネット時代」へ進化してきた自民のメディア戦略

有権者からすれば、自民党の「メディア戦略」の裏舞台については新鮮に思われそうですが、自民党の広告メディア発信周りを支えてきた電通との関係は、永田町、メディア業界では「公然の秘密」であり、過去にも関連書籍は散見されまして、テーマ自体は斬新ではございません。民主党が2000年代始め、いち早くPR会社を選挙戦略立案に起用したことも含め、政党のメディア戦略的なお話は、大下英治さんが5年前に出した『権力奪取とPR戦争 政治家という役者たち』(勉誠出版)にも詳しく、総理在任中の麻生さんがホテルオークラのバーに連日入り浸っていたのを批判された裏で、実はホテルの部屋でテレビ取材対策のトレーニングを受けていたエピソードがあったりします。

権力奪取とPR戦争
大下英治
勉誠出版
2011-07-29

 

ただし、大下さんの本は民主党政権時代の刊行。その後、ネット選挙が解禁され、SNS、スマホが普及。安倍政権のマスコミ対策が高圧的と取りざたされるまでに巧みになってきたことなど、メディアと政治を取り巻く環境が激変しましたね。古き良き永田町政治を知り尽くす70代の大下さんと異なり、デジタルネイティブな30代の著者が、小選挙区制とネット時代において、自民党のメディア・ネット戦略がどのように試行錯誤を積み重ね、今日の「自民一強」体制に貢献してきたのか、解き明かそうとしております。

まあ、エグザイル師の専門が情報社会論とあって、政治学者とは異なり、メディア論を交えた視点はそれなりに新しいかな。研究者らしい文献の考察と、自民党議員や広告代理店関係者、選挙コンサルタントらインサイダーへの取材を重ね、時に入手した内部文書も交えているあたりは、生々しいものの、ドライな筆致や視点が、現場にいる実務家には小憎らしく感じさせるあたりはご愛嬌って感じでしょうか。

メディア戦略も「自民一強」

本書が特に問題提起するのは、メディア戦略においても「自民一強」時代による“情報の非対称”の実態。自民党がメディア戦略と広報テクニックを年々高度化しているのに対し、博報堂を擁しているはずの民主党を始めとする野党は後手に回って戦略性が全く欠落。新聞、テレビ等の既存メディアもクラブ型取材を中心とする旧来型のアプローチから抜け出して切れておらず、ましてや“蚊帳の外”にある国民の政治・メディアリテラシーを引き上げる社会的な取り組みも不足しているままというのは、まあ、私も選挙の現場にいた当時、特定陣営に属していながらも薄々よろしくはないと感じていたことではあります。

本書の刊行やNewsPicksの企画で著者が小林史明衆議院議員と対談したりするなど、「自民党のメディア戦略最強だぜ」的ブランディングができちゃっているこの頃ではありますが、反面、自民党のメディア戦略が本当に「最強」なのか、ここはもう少し考察する必要がある気はします。

確かに、自民党の現在のメディア戦略の完成度の高さは、2000年代の郵政選挙の折から十数年をかけ、時に政権転落の憂き目もあった中で、失敗と成功を積み重ねてきた汗と涙の産物です。部外者からすると、その間のプロセスというのは、小泉総理の「個人芸」的なところから始まって、現在の安倍政権で「組織化」された印象を持たれそうですが、エグザイル師は本書で「小泉政治の内実は、政治家としての個人的資質の発露であると同時に、自民党内における戦略と組織能力が発揮されたものであった」との見方を示し、キーパーソンの一人として、広報戦略の現代化を進めた世耕さん(現官房副長官)の活躍ぶりを評価しております。

本当の「修羅場」はここからではないか?

一方で、世耕さんに関しては、危機管理のプロ、佐々淳行御大からは「宣伝は上手かもしれないが、記者会見の修羅場をくぐり抜けたようには見えない。彼の名声を高めた総選挙のメディア戦略にしても、もともと人気の高かった小泉さんをさらに上手に宣伝しただけ」という冷めた評価もあります(『わが記者会見のノウハウ』(文芸春秋)より)。

 


まあ、佐々御大の本は2010年刊行と古く、当時は安倍さんが一次政権の時に相次ぐスキャンダルでメディアが燃えたのを沈静化できずに退陣した記憶が生々しかった頃の話ですから、状況は変わりました。エグザイル師も『メディアと自民党』で指摘するように、安倍さんの再登板後は、内閣記者会と取り決めていた慣例を破って総理が出演する番組を選別、総理のテレビ出演により視聴率の影響があることを利用して、番組側が権力追及の矛先をにぶらせる手法によってメディアコントロールを画策。世耕さんたちも、一次政権の失敗の教訓を生かし、小渕、松島、西川、そして総理の盟友・甘利の4閣僚が辞任してもダメージを抑えているという評価もありましょう。ただ、それでも世論調査で民進党に「期待せず」が6割超えるなど、野党が戦後最も弱いという「敵失」環境の要素が相当大きいのではないかと思われます。

なんだかんだ、永田町で一般企業並みに組織的・戦略的に現代的なマーケティング手法をやり抜いてきた政党が他にほとんどいなかっただけ、という見方もできますしね。

この日曜の日経一面トップで「もたつく景気 内憂外患」と書かれてしまい、二次政権のメディア戦略のキラーコンテンツでもある「アベノミクス」に陰りも見え、GPIFで何兆円もの損失を出し、あす告示の北海道5区の補選は伯仲という情勢も伝えられております。その意味では、安倍政権のメディア戦略、世耕さんの手腕の真価が問われる局面はここからでしょう。

それでも民進党とは10年の差

まあ、それにしても、民主党はこの10年、何やってたのやらとも感じます。ネット選挙解禁前から、あれだけツイッターを使いこなす人がいる議員がいたという中で、細野さんがFacebookでおととい、ようやくこんなことを投稿。

民主党は野党転落後もネット戦略で遅れをとってきた。ただ、この世界は秒速で進化している。民進党になったこの転換点を逃すべきではない。

これは自民が党の公式ネット番組で、海外メディアの日本報道に注文をつける取り組みを報じた朝日の記事をピックした際のものなんですが、自民はメディア戦略を“海外展開”するあたり、仮に補選を落としたとしても、余裕しゃくしゃくなんだと改めて思います。もちろん、細野さんがおっしゃるように、民進党への衣替えは、メディア戦略立て直すの一大好機なわけですが、この10年の月日は、ペナントレースで言えば、30ゲーム差くらいの格差があると感じますし、博報堂がどんなに知恵を付けてもそれを活かし切る組織の体質転換がまず必要ではないでしょうかね。ではでは。

<関連記事(個人ブログ)>

新田 哲史
アゴラ編集長/ソーシャルアナリスト
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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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