私の考える「持ち家」VS「賃貸」

岡本 裕明

日経電子版で「持ち家か賃貸か どう探す理想の家(データディスカバリー)」という特集がしばらく出ています。内容は金銭面を含めた損得勘定で結論からするとこの低金利時代でも66歳までは賃貸の方が得、と出ています。与件の詳細が分かりませんので数字の分析は出来ませんが、思ったより賃貸でも行けるのか、という感覚を持った人も多いと思います。

長年不動産の仕事をしている身、賃貸や所有を何度か繰り返してきた個人的経験からすると日本は賃貸の方が有利な気がします。一方、カナダの様に不動産価格が果てしなく上がる国では所有の方が有利であります。

日本において賃貸が有利だと思う理由をいくつかあげましょう。

1. 持ち家はサラリーマンの転勤に伴い単身赴任などの原因となっている
2. 70年代、80年代は「君んち、持ち家、それともチンタイ?」と小学生でも話題になったが、今は親が差別的でもあるその話題を振ってこない
3. マンションの管理費は高く、戸建も多くの所有者が管理できておらず、管理の行き届く賃貸との差が表れる
4. ライフスタイルが急速に変化している
5. 住宅の値上がり期待は人口が増えない日本に於いて理論的にはほとんどない
6. 高齢になった場合、夫婦の片方が介護を理由にホームに入ることも多く、残された健康な人が家の面倒を全部見ることになる。これは子供たちに手伝ってもらわないと厳しい。

などなど、いろいろ理由は上がると思います。金銭的な差額は目が飛び出るほどではなく69歳で400万円程度であります。むしろ、若い時に使いたいお金をローン返済に回す制約の方が今の時代には合っていない気がします。

勿論、本当は持ち家の方がいいけれど不可能という方も多いと思います。また、何が何でも持ち家という人もいます。よって「どちらが良い」ということは一概には言えるものではありません。

では、マンションと戸建のどちらが良いか、という点ですが、マンションの土地の所有比率は小さく、戸建の将来価値の方が本質的には高いはずです。また、日本は戸建の建築費は安く、3-40年程度で建て替えることで別の意味での二世代住宅が可能です。マンションは古くなればなるほど管理コストが上がる一方、その価値は下がりやすくなります。

持ち家に安心感を求めるのは奥様に多い気がします。例えば小学生ぐらいの子供ですと「おまえんち、何処?」の会話はごく普通。それが親に全部筒抜けになります。賃貸アパートは一見すればすぐわかってしまいます。上述の2の時代は子供が持ち家をイニシエートしたのですが、今は奥様が「チンタイは恥ずかしい」と思うのではないかと思います。

ライフスタイルの変化とフレキシビリティも考えておいた方がよいと思います。今や一つの会社で一生過ごす時代ではありません。転職と共に全く違う場所での勤務もあるでしょう。一旦転職癖がつくと転々とし、最後に奇妙な厭世観のようなものが出てきて、「俺は山にこもる」とか「農業をやる」と言い出す人もいるのです。その場合、住処は家族構成や職種等に合わせて自由変化させやすい方が間尺に合っています。

今、独身の若い方に「マンション買いませんか?」と言っても一時のブームのようなことはないと思います。資産形成にならないからです。せいぜい、自分用で購入した1ルームマンションを将来、賃貸で貸し出すぐらいのオプションだと思いますが、ローンは残ってしまうケースが多いでしょう。そうすると次の一手が打ちづらくなるんです。

今はシェアリングエコノミーの時代。そして一部で流行るシンプルライフを標榜するミニマリストもあります。私も極力モノを持たない主義ですから家はでかい方がいいという発想が必ずしも当たらなくなった気もします。

但し、これは今のトレンド中の話で、30年後にどうなるかは分かりません。「あの時、こうしていればよかった」と思うことも出てくるのでしょうか?いや、私は団地を縦に伸ばしたような「タワマンなんて買わなきゃ良かった」という声の方が増える気がするのですがねぇ。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 5月20日付より