なぜ少子化でも、日本の大学は減らないのか?

2016年05月24日 06:00

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写真左は著者、右はインタビューに協力いただいた石川氏。

次のような質問をされて皆さまはどのように答えるだろうか?
1.いまの日本では子どもの人数とペットの数はどちらが多いと思いますか?
2.赤ちゃんのオムツと老人のオムツは、どちらが売れていると思いますか?

実は、子どもよりペットの方が多く、赤ちゃんのオムツより老人のオムツの方が売れている。15歳未満の子どもの数は34年連続で減り続け、今後も大きく増える見込みはない。また子どものいる家庭よりイヌやネコを飼っている家庭のほうが多いのが実情である。

今回は『一生モノの副業 この1冊でわかる大学講師のなり方』(左右社)の著者であり、大学講師などをつとめる石川和男(以下、石川)に日本の大学事情について伺います。

●2018年問題に対する大学の取組み

まず2018年からは18歳人口が大幅に減少することが明らかになっている。現在約120万人の18歳人口が、2031年には100万人を切ると試算されている。これが俗にいわれている2018年問題である。18歳人口の進学率を50%、入学定員を1000名と仮定すれば、単純計算で100大学分の入学者が消えることになる。そう考えれば事態は相当深刻といえよう。まず、石川は2018年問題について次のように答えている。

石川 驚くことに、大学の「数」だけをみれば、いまのところ少子化はあまりその増減に影響を与えていません。2015年時点で、日本の大学の数は779校。むしろ2010年くらいまでは、右肩上がりで増え続けてきたのです。

確かに、学校法人は民間企業と違い、経営が行き詰まったからといって即座に破綻するわけではない。文部科学省から出ている補助金や助成金などによって、学校法人は守られている。今後もスタンスが大きく変わることはないだろう。石川は当事者である大学関係者は学生数を増やすための努力をしていると次のようにつづける。

石川 学生数を増やすための有力な「市場」として、多くの大学が目をつけているのが「外国人留学生」です。日本に学生がいないのであれば、外国から学生を連れてこようという算段です。現在、日本の大学に通う外国人留学生は11万人程度。この数は、大学生全体の4%弱にしかすぎません。この状況をふまえ、2008年には、文部科学省が「2020年までに30万人の留学生(専門学校生・日本語学校生を含む)を受け入れる方針」を打ち出しました。30万人という数字は、大学生全体の10%強にあたります。これから大学生の10人に1人を留学生にしていくのです。

少子高齢化が進む中、外国人留学生を増やしていくことは国策である。今後、大学のグローバル化が進んでいくのは間違いないだろう。

●大学は実学を求めている

2010年に博報堂が実施したアンケート調査で「良い大学の条件」について18歳から69歳までの男女4000人を対象に聞いたところ「就職の面倒見が良いこと」が1位になった。「研究力があること」「教育レベルが高いこと」でもなく就職させる力がトップにくることは、実学的な要素が求められている裏返しでもある。

石川 つまるところ、キーワードは「就職」です。最大の関心事が就職にある以上、そのニーズを満たすことが大学の責務となっているのです。言い換えれば、近年の大学の役割は「学生を就職させること」に変わりつつあります。

就職を意識した”実務寄り”の傾向は、大学の学部学科の設置状況にも表れています。顕著な例として「看護学科」を新設する大学が激増していることが挙げられます。1989年、看護学科のある大学は全国で11校でした。現在その数は、228校にも及んでいます。なんと日本の30%の大学に看護学科が設置されているのです。背景にあるのは、高齢化に伴う看護師の慢性的な人手不足。不況が続くなかでも看護師の就職状況は堅調です。大学にとっては、女子学生を取り込むことができ、かつ確実に就職させることができる看護学科は、願ってもない集客マシーンなのです。

日本の大学はどんどん実学を学ぶ場に変化しているようである。大学と専門学校の区別がつかなくなってきそうだが、これは社会的ニーズなのだろう。

●講師に求められる素養

大学で実学が求められていることは理解できた。講師はどのように充足するのだろうか。

石川 近年、学生の関心事は圧倒的に就職であり就職先です。ただ大学の教授や准教授が、就職に関する実践的なアドバイスができるかというと、なかなか難しいでしょう。大学教員というのは、アカデミックな世界で純粋培養されるのが常。良くも悪くも就職活動というものを経験したことがありません。

大学教員というのは、専門分野の研究のプロであって、試験問題の解法テクニックを教えるプロではありません。「簿記論」を教えている講師が、必ずしも「日商簿記検定講座」を担当できるとは限らないのです。そのため既存の教員が資格取得対策講座に関与することはありません。結局のところ「モチは餅屋」とばかり、こういった実務系講座は外部から担当講師を探すことになるのです。

さらに大学は正規学生に対する授業のほかに、一般人向けに「公開講座」や「エクステンション講座」と呼ばれる講座を行なっています。このような一般向け講座は全国の1000校を超える大学・短大で実施されており、その数は年間3万講座以上にものぼります。講座内容は、アカデミックな講座のみならず、「経営」「営業」「広告宣伝」「流通」「簿記」「絵画」「手芸」といった講座までさまざまです。当然のことながら、実務家講師にしかできないコンテンツが増加傾向にあります。

大学講義の裾野は拡大しているようだ。それに伴い実務家が大学に教壇できるチャンスは増えている。何らかの専門性であれば誰にでもチャンスがあるといえるのかも知れない。

尾藤克之
コラムニスト

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尾藤 克之
コラムニスト/経営コンサルタント

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