給与が増えないもう一つの理由

2016年06月03日 10:04

少子高齢化が進む日本では本来なら働き手が減ってくるため、企業はより高い給与/賃金を良質な従業員を提供しなくてはいけない、というのが教科書的な流れかと思います。

ところが2016年の賃上げ率は定昇を含めて2%そこそこ。ベア実施企業は14年、15年に比べてガクッと落ちてしまいました。確かに春闘を行っている時期に急速な円高になっていたこともあり、企業側の危機感、経営側にすり寄る組合の遠慮もあったかとは思います。

企業のコスト意識はより厳しいものとなっていますが、それでも働き手がついてくるのはなぜでしょうか?

正社員のポジションは死守、これがまずは大前提でしょうか。一家の大黒柱として会社でどれだけ怒鳴られても、冷たくあしらわれても関連会社に出向になっても辞めるのは辞表を出すだけ。しかし、それをすると二度と正社員の社員証は得られないかもしれないという懸念がついて回ります。いわゆる転用が効かない従業員の資質、能力的問題は大いにあるかと思います。

最近は独り者も増えていますが、尚更やめられないのが正社員のポジションです。お気楽ひとり暮らしで会社からの給与はまるで定期的に貰えるお金のようなもの。スティーブン キングの小説「なにもかもが究極的」で毎週ドアの下に70ドル入りの封筒が置いてあり、それで生活するというのと同じです。

企業はしたたかです。そんな正社員を眺めながら巧みに賃金水準を抑え業績を上げる方法も考えています。その起爆剤となったのが安倍首相の「一億総活躍時代」であります。これには女性の社会進出もありますが、年金がもらえる年齢が5歳延びたことで高齢者の社会復活というのもあるでしょう。

例えば道路工事現場に立つガードマン。かつては大学生ぐらいの若者の絶好のアルバイトでした。(私も大学1年の時やりましたが、電線会社の夜勤で幹線道路で共同溝に電線を入れる作業はせいぜい4時間ぐらいで終わり、それでもフルの夜勤手当が貰えた美味しいバイトでした。)今、道路に立つのは高齢者で大丈夫かな、このおじいさん、というケースも時々見かけます。駅近くの自転車置き場の管理業務についているのも比較的高齢な方々。この人材募集に応募が殺到し高い競争率となっていると聞いて人材が足りない業種とそうではない業種とのまだら模様があるように感じさせます。

では労働力人口という統計で数字を見てみましょう。バブルが弾けた90年1月の労働力人口は男3762万人、女2565万人の合計6326万人です。最新の統計の16年3月分をみると男3732万人、女2865万人合計6598万人となっています。つまり、男はほとんど変わらず、女がピッタリ300万人も増えたということです。女性は90年比で約12%増えて専業主婦、三食昼寝付きのイメージは薄くなってきています。

1990年の15-64歳の生産年齢人口は8614万人。16年1月は7664万人ですから実に1000万人も減っているのに労働力人口は272万人も増えているのです。このギャップが賃金の上昇を抑えている可能性は高い気がします。

言い換えると一億総活躍時代は別に安倍首相が叫ばなくても生活する為に家庭ベースでは既に皆頑張ってきたのであります。ところが不幸なことに1990年から今日に至る間、IT革命でオフィスも現場も人材を大幅に削減することが可能になりました。その結果、企業が工場拡大や多店舗展開を進めない限り、必要な人材はどんどん減っていきます。この関係が低賃金、非正規雇用の増大につながったことは否定できません。

特に60歳から65歳の労働力については高給を求める人は少なく、アルバイトでもよいからという人が多く市場参入しています。これが賃金を低めに抑える結果となっていないでしょうか?

もう一点は消費側の立場です。少子高齢化は必然的に消費力が落ちてしまいます。高齢になれば外食の回数も減るし、洋服の平均単価、枚数も当然下がります。売れなければ店員も少なくて済むのですから労働力の需要は潜在的に落ちます。

更に外国人労働者はガンガン増えています。今年1月の統計で90万人となり一年前に比べ12万人も増えているのです。つまり、潜在労働力は減るどころが増えているのに企業は効率化を進め、頭脳や熟練性を求めないマニュアル管理された単純業務を増やし、労賃を下げる努力をしています。

では大学生の内定率が異様に高い点はどう捉えるか、ですが、これは日本の雇用文化の反映で、幹部候補生は大学卒で一年のうちこの時しか掴めないのだから何が何でも「優秀な人材」確保にまい進するだけの話です。入社3年で2-3割脱落、10年で半分ぐらいしか残らないのはふるいにかけて残る人材が欲しいだけの話でしょう。全体の労働市場とは違うベクトルが働くと思います。

IT化や機械化が進んで労働内容がより単純化され、熟練工のニーズが減っていることもあるでしょう。日本は少子高齢化で大変だといわれてきましたが実態の労働力は案外増えている、ということでしょうか?今後はホワイトカラーの効率化が更に進むと思いますので給与は一律から能力ごとの査定がより進む気がいたします。努力しないと食えない時代がくるということでしょうか?

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 6月3日付より

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