ラマダンにテロ事件が起こる理由

2016年06月14日 11:20

米南部フロリダ州オーランドで12日未明、29歳の男が同性愛者が集まるナイトクラブ内で自動小銃を乱射し、50人を殺し、53人に重軽傷を負わせる大惨事が起きた。オバマ大統領は同日、ホワイトハウスから国民向け緊急表明を発表し、「テロ行為であり、米国史上最悪の銃撃事件だ」と述べている。

米特別部隊に射殺された犯人の犯罪動機については解明中だが、イスラム過激派テロ組織「イスラム国」(IS)は同日、「われらの戦闘員が同性愛者のナイトクラブを襲撃した」と述べ、間接的ながら犯行声明を明らかにしている。

犯人の両親はアフガニスタン出身だが、本人はニューヨーク生まれで米国籍を持つ。テロ組織との関係は不明だが、ISは「ラマダン(断食の月)期間、欧米社会へテロを実行するように」と呼び掛けてきた経緯がある。

欧米のテロ問題専門家は、「ラマダン期間にイスラム過激派組織がテロを行う危険性が高い」と警戒を呼び掛けてきた。オーランドの犯人の場合、詳細は不明だが、明らかな点は、ラマダン期間にテロ事件が発生してきたという事実だ。中東紛争で“ラマダン停戦”、“ラマダン和平”という表現が飛び出すことがあるが、それはイスラム教の世界を知らない欧米外交官が考える世界だ。ラマダンこそイスラム過激派にとって絶好の戦闘期間というのだ。

それでは、なぜラマダン期間にテロが多発するかを少し考えてみたい。ラマダンはイスラム教徒が行わなければならない「五行」の一つだ。この期間、太陽が昇った時から日没の間、食事を断ち、この世の快楽を慎む。太陽が沈むと断食明けの食事(イフタール)を家庭で、そして寺院でとる。

ラマダン期間はイスラム教徒が普段より寺院に集まる機会が多い。彼らは食事をしながら、説教者の話を聞く。そこで説教者が欧米社会の腐敗を糾弾し、信者の憎悪を駆り立てることも少なくない。すなわち、ラマダン期間にテロ事件が発生する背景には、(1)イスラム教徒が寺院に集まる機会が多いこと、(2)説教者から欧米文化への憎悪を聞く機会が増えること、といった状況があるからだ。

中東テロ問題の専門家アミール・ベアティ氏(イラク出身)は、「イスラム教寺院では久しく憎悪説教をする指導者がいる。彼らの多くは正式なアカデミックな教育を受けたイスラム教専門家ではない。西側社会の価値観を受け入れず、聖戦を呼びかけている指導者だ」と証言している。「パリ同時テロ」後、フランスとベルギー両国は国内のイスラム寺院の監視強化を進めてきている。

ちなみに、パレスチナのイスラム原理組織「ハマス」はラマダン期間、信者たちから集まった献金を活動資金にしている。ベアティ氏は、「ハマスはラマダン明けのイフタールを悪用し、信者たちが捧げた物品や資金を獲得している」と指摘、ハマスのイフタールの政治的利用を指摘しているほどだ。

もちろん、ラマダンの宗教的側面も無視できない。この世の快楽を断ち、祈祷を捧げる修道者には一種の宗教的オーラが漂う。宗教的高揚心ともいうべき現象だ。断食は、肉欲を断ち、霊性を目覚めさせる修業でもあるからだ。当方の友人のイスラム教徒は、「ラマダン期間は心が清まる。他者に何か施したいという欲求が高まる期間だ」と信仰告白をしていた。

まとめる。ラマダンはイスラム教徒にとって宗教的にも政治的にも高揚する機会である。それゆえに、というべきか、イスラム過激テロ組織がそのラマダンを自身の野望実現のために悪用する危険性があるわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年6月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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