知財計画のモノモノしい議論

知財本部 検証・評価・企画委員会@霞が関。
知財計画2016策定のための最終会議です。島尻大臣出席のもと、29名の委員が並びました。
第4次産業革命時代の知財イノベーションの推進、知財サイクルの普及・浸透、コンテンツの新規展開の推進、知財システムの基盤整備。
政府調整の結果、素案ができてきました。

しかし本来、この場ではほぼ計画はできていて、シャンシャンとなるべきところ、今回は違います。まず資料は「会議後回収」、傍聴席には配布もされないというモノモノしさ。資料の中も「調整中」の文字が散見されます。それほどナイーブな内容をはらんでいたということです。

結論から言うと、この日、委員からも、意見や注文が相次ぎました。それを踏まえてさらに事務局・委員間の調整が必要で、それは関係省庁との再調整が必要です。さらには与党との調整が必要かもしれません。知財計画の策定、持ち越しです。

コンテンツ分野の議論を紹介しておきましょう。

荒井委員:次世代システムの検討は画期的だが、5~10年後の変化の全体像を示すべき。

奥村委員:AI論議は著作権に偏っているが、産業全体での検討が必要だ。

近藤委員:AI議論は特許等の検討も必要。世界に議論を働きかけるべき。

宮河委員:ドバイのコミック展では、8割が模倣品だった。業界として正規品を提供することが重要だが、同時に教育も重要。海外の啓発を行うべき。

井上委員:孤児著作物はTPPで深刻になる。裁定等について大胆な制度改正を。教育情報化はデジタル教科書の補償金が取り沙汰されているが、その公費負担も検討すべき。

斎藤委員:柔軟な権利制限は業界関係者も参加して議論を詰めるべき。ビジネス側を犠牲にしてまで進めるべきではない。

瀬尾委員:アメリカ型(フェアユース)の仕組みを現状で取り込まないよう注意が必要。

迫本委員:アメリカ型のフェアユースは「紛争処理コスト」の点で問題が大きい。

杉村委員:読んでもわかりにくい。重点政策の概要ペーパーを用意すべき。

野坂委員:政策の時間軸を明確にすべき。AIは創造物をいかに使いこなすか、教育が重要。

野間委員:海外インターンによる教育は効果大。施策を厚くすべき。

森永委員:熊本の地震で、NHKと民放が初めて同時サイマル配信を実施している。だが放送と通信で著作権は別扱い。配信の許諾がないものはフタをしている。欧米では同じ扱いであり、これは問題だ。

重村委員:海外には子供向け教育・教養番組の展開が重要。アメリカは展開が強く、中韓も力を入れている。放送のネット同時配信は東京集中の問題が大きい。ローカルの担保を考えることが必要。

喜連川委員:「デジタル・ネットワーク化」より「AI・ビッグデータ」。タイトルを変えたほうがいい。検索エンジンの悲劇を繰り返すな。ちょっとやんちゃなことをやっていい、というメッセージを含ませたい。

さて、どれとは言いませんが、どう扱ってよいやら悩ましい意見もありつつ、ひとまず会議としては一段落。
最後に一言コメントしました。

「海外展開やネット対応では政府の施策は厚みを増し、民間の成果も現れ始めている。そして今回、次世代システムの議論に取り組んだところ、やはり激論が続くこととなった。

10年前はパッケージ・コンテンツをどうするかが重点で、5年前からはスマホ・クラウド・ソーシャルの「スマート化」への対応が中心となった。だが去年はIoT・AI・ビッグデータへのステージ転換が見られ、ならばと世界をリードする知財政策に取り組んだ。

なんとか一つのとりまとめに至りつつあるが、やはり今日の資料でも政府内「調整中」の文字が並ぶ。取り扱いの難しさを物語る。政府には新環境に向けてのアクションを期待しつつ、当方はそれに対する検証・評価を続けたい。」

さて、もうひとがんばり。ないし、ふたがんばり。ないし。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年8月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。