天皇陛下の「生前退位」報道、僕はこう考える

2016年08月10日 06:00

田原総一朗天皇陛下が「生前退位」の意向――。7月13日夜7時、NHKがニュースで報じた。メディアは大騒動になった。

天皇陛下は、現在82歳である。そのお年にもかかわらず、多くの公務をこなされている。だからではないが、今のうちに皇太子さまに引き継ぎたいというお気持ちなのだろう。

天皇陛下は、戦後60周年にサイパン、70周年にはパラオへの慰霊の旅をされた。ご自身のなかで一区切りついた、という思いもあるのかもしれない。

これがいち企業の経営者だったら、何の問題もない。だが、天皇陛下はそうはいかない。退位に関する規定が「皇室典範」にないのだ。だから騒動になった。「皇室典範」では、「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」(第4条。皇嗣〈こうし〉=皇位継承者の第一順位にある者)と定めてあるだけなのだ。天皇陛下の生前退位を実現するためには、国会で「皇室典範」改正の議論が必要になる。

翌14日、宮内庁の風岡典之長官は「生前退位の意向」報道を否定した。 もし、天皇陛下が生前退位を望んでいるとすれば、「皇室典範」改正を望むことにつながる。「政治に関与した」と言われかねない。だから、宮内庁は否定せざるを得なかったのだろう。

ところが、同じ日の「毎日新聞」朝刊は、次のような報道をしていた。天皇の意向を受けた宮内庁の幹部たちが、生前退位について今年5月以降、水面下で検討を進めていた、と。 この「幹部」には、もちろん風岡長官も入っている。風岡長官は報道を否定しながらも、水面下では調整を重ねていた、ということになる。

政府は、天皇陛下の意に沿うべく、なるべく早く国会審議を始めるべきだ、と僕は思っている。ただ、ひとつ、気にかかることもある。自民党をはじめとする右派は、生前退位を認める動きに反対しているのだ。かつての戦前の日本であったように、天皇の意見や姿勢が合わないという理由で、時の権力者が天皇に譲位を強要する危険性があるというのが理由のようだ。そもそも彼らは、現在の日本国憲法が定めた「天皇制」に反対で、天皇の位置づけを変えていこうと考えているのだ。

自民党が野党時代の2012年に発表した「日本国憲法改正草案」に、その思惑がうかがえる。現在の日本国憲法第7条では、「天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ」とある。 一方、自民党の改正草案第7条には、「内閣の助言と承認により」という部分が、すっぽり削られていて、「天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う」とあるだけだ。

自民党の憲法改正草案は、天皇の政治的機能を高めようとしている。つまり、権力を強化しようとしていると言っていいだろう。このように考える人たちが、陛下の生前退位のご意思を否定しているわけだ。

だがしかし、天皇陛下がご高齢であることや健康状態を考えると、生前退位もやむを得ない。現在の象徴制のまま、「皇室典範」に条件をつけて生前退位を認めれば、何も問題はないのではないか。

元号について問題があるという声もある。それなら、大正時代の「摂政」のような役職を設ければいい。日本国憲法の理念を変えずに対応できる話だ、と僕は思う。

一部の人々の思惑ではなく、天皇陛下のご意向が尊重されることをただ願う。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2016年8月9日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。

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