五輪と政治、そしてマナー

長谷川 良

リオデジャネイロ夏季五輪大会はいよいよ後半に入り、メダル争いも一層加熱してきた。第31回夏季五輪大会がリオで開催決定して以来、南米大陸初の夏季五輪大会成功のために日夜努力されてきた多くの関係者に敬意を表したい。

TV観戦してきた五輪ファンの一人としてこれまで感じてきたことを書き記す。

ブラジル・ファンの熱気溢れる応援姿がとても新鮮だが、時には、「もう少し抑えたらいいのではないか」と思わざるを得ないシーンもあった。

男子体操種目別ゆか決勝でブラジルのジエゴ・イポリト選手とアルトゥール・オヤカワ・マリアーノ選手が銀、銅メダルを獲得したが、最後の選手が競技を終えていない時から、2人はそわそわし、1人はフロアーに頭をつけて祈りだした。結果が出てメダルが決まると2人は大騒ぎで喜ぶシーンが映された。メダルのために祈るのはいいが、他の選手が競技中にはよくない。会場のブラジル・ファンも競技中は応援を少し控えるべきだろう。他国の選手が冷静に競技ができなくなるからだ。

陸上男子棒高跳びはブラジルのチアゴ・ブラス・ダ・シウバ選手が金メダルを獲得し、一躍ブラジルの英雄となったが、ロンドン大会で金メダルを得たルノー・ラビレニ選手の競技中にブラジル・ファンからヤジが飛び出した。16日に行われた表彰式でも銀メダリストとなったラビレ二選手に対しブラジルの観客からブーイングが出た。

現地からの情報によると、世界記録保持者のラビレニは試合後、「自分に対するブラジルのファンたちの姿勢はナチス・ドイツ時代に開催されたベルリン五輪で米国のジェシー・オーエンス氏が受けたのものと同じだ」と指摘し、ブラジルのファンを激しく批判したという。

ラビレニ選手は、「自分はブラジルに対して何も悪いことをしていない」と呟いたという。独週刊誌シュピーゲル電子版は、涙を流す同選手の写真を大きく掲載していた。

ブラジルのファンのヤジやブーイングは棒高跳びだけではない。男子テニスのシングル準決勝で13日、アルゼンチンのマルティン・デルポトロ選手が第3シードのラファエル・ナダル選手(スペイン)と対戦した時だ。ブラジルのファンはデルポトロ選手がミスする度に歓声を上げた。同選手がアルゼンチン出身だからだ。ブラジルとアルゼンチンは南米の主導権を争うライバル意識が強く、ブラジル国民はアルゼンチン人を余り好まない。だからブラジル人はデルポトロ選手のプレイにブーイングを飛ばしていたわけだ。

問題はブラジル人ファンのマナーだけではない。リオ五輪の男子柔道でイスラエルのOr Sasson選手が試合後、相手のエジプト人EI Shebaby選手に握手を求めたが、それを拒否されたことが大きな話題となった。アラブ人はイスラエル人とは握手しないというのだ。

柔道は礼で始まり、礼で終わる武道だ。柔道選手はそれをよく知っている。勝ち負けは別に、対戦が終わると相手に一礼をするのが柔道だ。エジプト選手の振る舞いに対し、批判の声が出たのは当然だろう。

ちなみに、体操男子の内村航平選手が10日、体操男子個人総合で逆転で2連勝したが、記者会見で内村選手に、「審査員の採点が甘いのではないか」という一部記者たちの質問が飛び出した時、最後の種目で内村選手に逆転されて2位に甘んじたウクライナのオレグ・ベルニャエフ選手は、「そういうことはあり得ない。意味のない質問だ」と一蹴し、内村選手の実績を擁護して、金メダリストを庇ったという話が報じられた。

スポーツはフェアでなければならない。国の代表として五輪に参加した選手にはやはり品格をもってほしいものだ。そしてファンたちも同じようにフェアでありたいものだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。