「24時間テレビ」を批判する違和感のある人たち

尾藤 克之

無題
写真は栃木新聞。昭和62年(1987年)7月30日。

Eテレ「バリバラ」が日本テレビの「24時間テレビ」を批判したことが話題になっている。さらには「愛は地球を救う」というキャッチコピーまでが批判に晒されている。

以前から同番組批判をする人は多いが、彼らに「24時間テレビ」を批判する資格はあるのだろうか。社会福祉の実態を理解せずに活動もしていない人が番組批判ができるのだろうか。それとも厚顔無恥なのだろうか。

■芸能人が参加するメリット

芸能人は、フアンや支援者が多いためメディアへの影響力が強く、芸能人の存在によって多額の募金が集まり易いというメリットが存在する。

写真週刊誌のFLASH(2013/8/13号)は、番組総製作費が4億2000万円で、CM収入の合計が22億2750万円だと報じている。これに募金を加算すれば、番組総収入は相当な額になるだろう。さらにチャリティ番組であることから、スポンサーがつきやすい。

「障害者に対する扱いがあまりに一面的」という意見がある。これまでも、津軽海峡縦断リレー、車椅子で琵琶湖一周、視覚障害者の富士登山、先天性四肢障害者のピアノ演奏など、趣向を凝らしているがその活動が理解できないという主張も存在する。

しかし、番組の目的は障害者理解を深めることであるから、これらの挑戦やチャレンジによって多くの人に感動や勇気を与えたり理解が深まるなら否定するものではない。

芸能人のチャリティーマラソン(今年は林家たい平)にも批判が多い。しかし、過酷なマラソンを走らせることは、一つの目標に向かって一生懸命頑張っている姿を見せることにもつながる。

目標は異なるものの「負けずに頑張ろう」という強いメッセージを発信することが可能になる。素人よりもタレントの方が視聴率も高くなるから共感する人も増えてくる。視聴率がアップすることで募金額も増えるわけだから、これは認許の範疇であると考える。

■意識が低い日本の現実

Charities Aid Foundation(CAF)によると、2012年に世界146カ国の15.5万人を対象に寄付やボランティアに関する調査を行った結果、個人の寄付活動について活発な国を順位別でならべると次のとおりになる。

1位オーストラリア、2位アイルランド、3位カナダ、4位ニュージーランド、5位アメリカ。日本は85位で先進国のなかでも最低レベルである。日本は先進国最低レベルの意識だから、理論や理屈などの建前だけで福祉を啓蒙することはできない。

募金にもその性質が表れている。ニッセイ基礎研究所の調査によればアメリカの寄付の特徴として個人寄付の割合が70%以上と高く、個人として寄付行為が浸透している。1人辺りの年間寄付額を算出すると、アメリカが62,237円に対して、日本が5,431円であり、約11倍の開きがある。

「愛は地球を救う」というキャッチコピーについても私見を述べたい。どのような経緯を経てキャッチコピーがつくられたのかは知らない。しかし、「愛」という文字には、人間の根源的感情として多くの価値との交わりを可能にしている意味が込められている。「愛」がすべてを標榜しているのだと推測する。

また、番組が開始された、1978年の時代背景を考えてみたい。当時は、障害者差別が色濃く残っていた時代である。本人の意思に関わらず、人権や生存権が損なわれるような経験を無関係に強いて、障害を理由とした社会参加が制限されていたのである。

番組の特別企画の主旨にもふれておきたい。年末年始、緊急時などを除いて、通常の放送を休止し特別企画を放送することは画期的であった。これは、福祉をテーマにしたことから実現可能であったことが同番組HPにも記載されている。これらのことから閉鎖的で異を好まない当時の風潮を窺い知ることができる。

このような変遷を考えれば、24時間テレビは我が国における「福祉の啓蒙」を牽引してきたと称しても過言ではない。私自身は、「24時間テレビ」を支持する立場にたちたい。

■愛がなければ地球は救えない

私が支援している「アスカ王国」という障害者支援の団体がある。1981年の国際障害者年の記念事業として活動を開始した。活動期間中は「健常者、障害者、指導者、来賓等の区別のない交流を図りボランティアスピリットを高めた国つくりをおこなう」ことを目的としているため、活動の名称に王国(KINGDOM)を追記し「アスカ王国」としている。

これまでに全国50ヶ所以上で開催し、参加者総数は約2万人を数え、後援をいただいた国会議員や地方議員等は200名を超している。各地方行政からの支持もあり、最近は企業からのニーズも高まっている。なおキャッチコピーは「愛と平和の国“アスカ王国”」である。

1972年に米国ペンシルバニア州裁判所は「障害の如何を問わず、すべての子供はその能力に応じて教育を受ける権利を有する」(Pennsylvania Association for Retarded Children,PARC判決)と宣言している。これは、差別的な教育に対する是正を求めたものであり、教育のダンピング(教育の放棄)を招く危険性があることへの警告である。

内閣府の平成26年度障害者雇用状況によれば日本における障害者数は、身体障害者366.3万人(人口千人当たり29人)、知的障害者54.7万人(同4人)、精神障害者320.1万人(同25人)であり、国民の6%が何らかの障害を有するとしている。障害者政策は私たちにとって喫緊の課題でもある。

批判をするまでもなく、嫌な番組なら見なければ良いのではないか。また、批判する方々は、これまでどのような活動をして、幾らの寄付を集めて、社会に価値を還元してきたのか。説明できないなら批判をする資格などないだろう。

PS

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尾藤克之
コラムニスト