寂しい北の「建国記念日」祝賀会

9日は北朝鮮の第68回建国記念日だ。それに先立ち、海外の北朝鮮大使館では6日夜、ゲストを招いて祝賀会が開催された。海外駐在外交官の脱北が増加している時期だけに、大使館内の雰囲気は例年とは異なり、緊張感が漂っていたという。

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▲建国記念日を祝賀する在ウィーンの北大使館(2016年9月6日午後6時、撮影)

駐オーストリアの北朝鮮大使館(金光燮大使、Kim Kwang Sop )でも同日、ゲストを招いて祝賀会が開かれたが、朝から雨模様で、気温も前日より5、6度低いこともあってか、ゲストの数は少なかった。当方が大使館前で見ていた範囲では、30分間に数人のゲストが目撃されただけだ。大使館の中庭には外交官がゲストの到着を待っていたが、手持ち無沙汰のようだった。

ところで、駐英北朝鮮大使館のテ・ヨンホ公使が脱北したことで、海外駐在外交官への監視の目が一段と厳しくなってきた。今年に入って既に5人の外交官が脱北したという。外交官の亡命防止策として、外交官の家族は帰国を命令されたという情報も流れた。確認はできていないが、6日のウィーンの祝賀会でゲストを接待する外交官の奥さんたちの姿は少なかったという。多くの外交官は単独赴任を強いられるのだろうか(参考までに、韓国の聯合ニュースが7日報じたところによると、「今年1月から8月までに韓国入りした脱北者は894人で前年同期比15%増加した)。

なお、毎年6月末から3カ月間、休暇を兼ねて平壌に戻る金光燮大使(大使の夫人、金敬淑夫人は故金日成主席と金聖愛夫人との間に生まれた長女)は8月中旬にウィーンに帰国している。北朝鮮で休暇を楽しんでいる間に、ウィーン駐在の外交官が脱北でもしたら大変、責任を追及されかねない。そこで今年は大急ぎでウィーンに戻ってきた、というのかもしれない。それとも、金正恩氏の命令が出たのかもしれない。なお、金敬淑夫人は現在、ウィーンに戻ってきている。

ウィーンの大使館の掲示板には9枚の写真が掲載されていたが、今年5月に36年ぶりに開催された第7回北朝鮮労働党大会の写真で占められていた。それも金正恩党委員長の写真だけだ。祖父の故金日成国家主席、父親・故金正日総書記の写真は1枚もなかった。当方の知る限り、祝賀会で両者の写真が展示されなかったのは初めてのことだ。金正恩氏にとって、祖父や父親の助けなくして一人立ちしたことを内外にアピールしたいところだ。好意的にいえば、政権を世襲して今年12月で5年目に入る金正恩委員長の政権掌握の自信の表れだろう。

ちなみに、北では2月の金正日総書記誕生日(光明星節)、4月の金日成主席誕生日(太陽節)には世界各地の北朝鮮大使館でも祝賀会が開催されるが、ゲスト参加数では金日成の誕生日が圧倒的に多い。「金日成主席にはカリスマ性があり、依然人気は高いが、その息子金正日になると人気はガックと落ちる」という。

3代目の金正恩委員長が自身の誕生日1月8日を公式祝日としないのは、父親や祖父の功績への配慮からというより、自らの人気のなさを知ったうえでの判断かもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。