マカオは燃えているか

ラスベガスは世界一インチキです。

砂漠に電飾の楼閣をえっちらおっちら建て、夢のハリボテを作ります。全米の田舎者が訪れます。堂々とした嘘。モナコの気品なぞ糞くらえ。

それに引き換え、マカオは慎ましい。


マカオは西洋の二番煎じですから。
後ろめたいですから。
パリやベネチアを模倣したラスベガスをまた模倣したりする、その嘘の二乗に、決して王座など狙わないという謙虚さを見ます。

だからデジタルサイネージもどこか慎ましい。
街中ギラギラと主張するラスベガス、上海、シンガポール、バンコクに張り合うような仕掛けはみられません。
図体がでかいだけです。

1999年に共に中国に返還されたとはいえ、華々しい香港には引け目を感じます。
親の違いでしょうか。
1887年、アヘン戦争のどさくさにポルトガル領とされた頃には、もう宗主国は没落しており、その後も覇権を握ったイギリスとは、後ろ盾の強さが違っていました。

その分、異国情緒では負けません。
南蛮と多湿のアジアとが同居し、500年もの歳月をかけて結合してしまった、よそにはない空気が漂っています。

中国にある、ポルトガル植民地の、インド人警官のために、イタリア人建築家が、アラブ様式で作った建物。
それは、奇跡ではあるまいか。

それよりもぼくは、裏側に目を奪われます。
さびれたリスボンの路地裏を思わせる光景は、暑くもないのにねっとりと汗をしたたらせる湿気もあいまって、長い間ゆっくりと没落してきた哀しさをたたえます。
好きです。

室外機。洗濯物。室外機。洗濯物。漢字とアルファベットの看板。物乞いのばあさん。停電。停電。横を全力疾走するジャージの女子高生。ドドドドド、キューン。ドリルの音。作っている。壊している。90度腰が曲がったじじい。

うちわほどの大きさの包丁で、いや、鈍器だ、おばさんが豚の頭を砕いている。顔は横を向き、同僚と楽しく語らいながら、ニコニコと豚の頭を砕いている。脳みそも売ってくれる。この赤い世界、美しい。
それにおばさんは気がついているのでしょうか。

8つの広場と22の建造物が世界遺産に指定されています。
これだってそうです。
世界遺産?ああ、ウチにもあるけど何か?
うん、それでいい。

ところがマカオ、景気はいいのです。
カジノ経営権の国際入札で外国からの投資が相次いでいます。
カジノ売上はラスベガスを抜いて世界一になったのだそうです。
チャイナマネーが入っているのだそうです。
ホテル建設ラッシュで槌音が響き渡ります。

町外れのマンガ店で日本のカード対戦にうつつを抜かす諸君。
教育・医療は無料で、世界一長生きとされるマカオの若者諸君。
隣の香港は学生がきな臭くなっているが、キミたちは大丈夫か。

まぁ、祈っておきましょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年9月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。