ハンガリーのテロ報道、政権の情報工作の疑いも

ハンガリーの首都ブタペスト市内で24日午後22時36分ごろ、バーや喫茶店で賑わっている繁華街で爆発事件が起き、パトロール中の警察官2人が重傷を負った。ハンガリー警察側は25日夜、記者会見で「犯行は明らかに警察官を狙ったものだが、警察官全体への攻撃か、負傷した2人の警察官を狙ったものかは不明だ」と語った。負傷した2人の警察官は、「爆発した場所を特別にパトロールしていたのではなく、通常のパトロール中だった」という。同爆発事件とテロと関連については、「捜査担当の検察庁が目下7つのシナリオを検討中で、何も断言できない」という。犯行は単独説から2人説まで流れている。

ハンガリーのMI放送は、「市内の監視カメラには爆発場所にカバンを置いた不審な男が映っていた。自家製の爆弾の可能性があり、爆発現場には無数の釘が路上に散らばっていた」と報じている。ハンガリー議会は26日、安全問題委員会を招集し、事件の背景について協議している。

ハンガリーでは10月2日、欧州連合(EU)の難民12万人の分担案への是非を問う国民投票が実施されるが、その数日前に爆発事件が起きただけに、さまざまな憶測が流れている。

シリア、イラク、アフガニスタンから昨年夏、多数の難民・移民が欧州に殺到したが、ハンガリーにもバルカン・ルートから多数の難民がブタペストに入りした。ハンガリーでは国境警備隊が対セルビア国境沿いでフェンスを越えて入ろうとした難民・移民に放水する一方、催涙スプレーを使用するなど厳しい対応に出た。このニュースが流れると、欧州諸国や人権グループからハンガリー政府の対応に非難が飛び出したことはまだ記憶に新しい。

国際人権団体「アムネステイ―・インターナショナル」(IA)は27日、ハンガリーのオルバン政権の難民政策について、「難民は殴打され、警察犬に追われるなど乱暴に扱われ、時には数カ月も拘留されるなど、難民の人権は蹂躙されている」と批判している。

ハンガリーの新法によれば、治安関係者は不法に入国した難民に対しては即セルビアに強制送還できる権利がある。一方、公認された難民の状況も厳しく、非衛生な環境圏におかれ、医療治療も受け入れられない状況下にある。国民の間では難民への恐怖やイスラム・フォビアが広がっている。

さて、来月2日に予定されているEUの難民分担政策の是非を問う国民投票の行方だが、国民はオルバン政権の厳格な難民政策を支持していることは間違いないものの、今年に入って難民の数も減少、また難民問題に対する国民の関心が薄まってきているため、国民投票の投票率が懸念されだしているほどだ。投票率が50%を割れば、投票は無効となり、国民投票を推進してきたオルバン政権にとって大きなダメージとなる。

政府寄りの日刊紙「MagyarIdoek」は28日、昨年11月13日のパリのバタクラン劇場を襲撃した3人のテロリストが昨年9月9日、ブタペストのホテルに宿泊し、そこからベルギーのテロリストのサラ・アブデスラム容疑者にピックアップされ、欧州入りしたという内容の記事を掲載した。すなわち、ブタペスト駅でオーストリア、ドイツ入りを待っていた多くの難民の中にパリ同時テロ事件の実行犯がいたというわけだ。その情報源は不明だが、国民に難民、移民への嫌悪感・恐怖感を煽るのに十分な衝撃度がある。

ブタペスト市内の爆発事件、そして今度は暴露記事。難民受け入れ政策を問う国民投票を直前にしてオルバン政権の懸命な情報工作が進行中だ、と受け取られている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年9月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。