人生の折り返し地点

明治生まれの日本が誇るべき偉大な哲学者であり、教育者である森信三先生は『人生は唯一回かぎりの長距離マラソンである。(中略)「死」が決勝点ゆえ、「死」が見えだしたら、そこからイヨイヨひた走りに突っ走らねばならぬ』と言っておられます。

此の『「死」が見えだしたら』とは、端的に申し上げれば、「自分の経験値も増え、それなりの社会的地位も出来始め、影響力を人に与え得るようなタイミングになったら」ということでしょう。之は、長い距離を走るマラソンで最初から全力疾走して、「途中でくたばったら駄目」であるのと同じです。そういう意味では、40歳位が人生の折り返し地点だと私は思います。森先生も「偉人は四十頃からぼつぼつスピードを掛け出すが、凡人は四十歳頃から早くも力が抜け出す」と述べておられます。

嘗て私は『2011年度入社式訓示』の一部で、その年の新入社員に次のように伝えました――『論語』の中に「十有五にして学に志す。三十にして立つ」とあるわけで、貴方達はもう直ぐ30歳になり、立志の年、即ち志を立てる年になるのです。何時までも志が立たなければ「四十にして惑わず」とは行かず、何時まで経っても惑い、どう生きて良いのか分からないというような人間にしかならないのです。貴方達が20代にどれだけの学問修養を行うのかが、立志の年以降の人生の歩みを大きく左右するのです。

勿論、佐藤一斎の「三学戒」にあるように「少(わか)くして学べば壮にして為すあり。壮にして学べば老いて衰えず。老いて学べば死して朽ちず」ですから、死するその時まで学び続けねばならないのは言うまでもありません。

大事なのは不惑の年、40歳位で来し方を大いに反省し行く末に思いを馳せて、方向性が決まったところでラストスパートを切って行くということです。志が固まらず方向性も見出せぬようでは「これから、どこへ向けて走って行くの?」といったふうになるでしょう。従って、ある程度そういうものが定まって後、本格的に走り出すのです。

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