知財立国が危ない!

2016年12月01日 11:30

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荒井寿光・馬場練成 著「知財立国が危ない」。

2003年、特許庁長官を経て知財本部の初代事務局長に就任、多大な功績を築いた荒井さん。2002年小泉首相の知財立国宣言、03年知財基本法公布、05年知財高裁設置。矢継ぎ早に仕事をされました。ぼくも事務局長時代に知財政策に組み込まれました。

本書は日本の特許・知財分野がいかにガラパゴス化しているか、ショッキングなデータや事例を並べていきます。知財高裁を作った荒井さんがそう指摘するのだから、絶望的です。ピックアップします。

・特許の海外出願率は、米国は51%、欧州は63%。日本は24%で、国内出願が中心。

・特許の分類方式は、米国も中国も韓国も欧州に合わせる方針。日本は日本方式に固執。

・知財訴訟は、中国8000件、米国4000件、日本は200件。
しかも知財裁判は、世界の中でも珍しいことに日本は減少している。

・賠償判決は、米国も中国も1000億円規模だが、日本は10億円。1/100。
プロ野球の年俸でも1/5の開きなのに。
日本は侵害者天国であり、日本で特許権を行使しても無意味。

・訴訟を起こす印紙代は、1000億円の請求だと1600万円。
米国は350ドル、フランスはゼロ。
日本では裁判を起こしにくい。

・日本の知財裁判は「勝てない、少ない、遅い」ため、世界に相手にされていない。

・日本企業は知財裁判を日本で起こさず、米国で起こして判例を残す。

・日本は和解決着が多い。裁判所の体質と能力不足による。

・日本の裁判は秘密主義で裁判の日程も書面も不公表。

・企業が国境を越えて裁判所を選ぶ時代となっている。裁判官にも国際感覚、技術、知識が必要。だが米国では12年勤務するところ、日本は2~3年で交代し、専門家も育っていない。

そして本書は、科学の進歩に新しい問題が発生した時に法律家は適切な発言をしない、という指摘を投げかけます。法学者や司法関係者は、これにどう答えるでしょうか。

特許の司法はダメっぽいっですが、いくつか元気の出る指摘もあります。

政府の特許事務は、2008年に滞貨が91万件だったが2014年には19万件に減少、あと2年でゼロとなって、出願すれば待たずに審査されるといいます。荒井さんの成果ですね。

共同研究による特許料の管理で資金を確保・投入する大村智博士の手法「大村方式」を本書は高く評価しています。これが書かれて1年も経たずに大村さんがノーベル賞を授賞したんですよね。

カップヌードルを発明した安藤百福さんは、インスタントラーメンの特許を開放することによって市場を創出し、世界で最も影響のある食品を創りだした。この実績を本書はモデルとして描きます。そう、評価すべきです。

クールジャパンはマンガ・アニメ・ゲームだけではない、給食もそうだと説きます。日本には売り物がまだまだあると。同意します。身の回りのものを掘り起こしてデジタル発信するだけで強みを発揮できるものがあります。

しかし本書はまた、TPPの知財決着を危惧します。競争力を削ぐのではないかと。これも同意します。そして出版後、ヤバい方向で決着しました。トランプさん当選もあり、まだ揺れますが。国内制度の整備と環境の構築に万全を期す。仕事は多いです。

荒井さん、引退は遠いですよ。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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