西田亮介著「メディアと自民党」。
総務大臣が放送局の電波停止権に言及したり、大物キャスターが番組を降りたりして、政治とメディアの関係が何やらキナ臭い。政治の季節に、押さえておいていい一冊。
本書は、記者クラブや番記者制に代表される政治とメディアの「慣れ親しみ」が、ネットやソーシャルメディアの時代にどう変化しているか、中でも自民党だけがいかにメディアとの継続的な関係を築いてきているかを描きます。
2000年、政府がIT基本戦略を策定したころから、自民党は勘による選挙からデータ重視へと移行しました。特に第2次安倍内閣では、プロの手を借りつつ新広報戦略を打ち出し、コミュニケーション戦略チームを内製化していったといいます。
しかし民主党には、政権時に記者会見のオープン化は図ったものの、自民党のような明示的な広報戦略はなかったそうです。ネット選挙解禁もチャンスがあったのに、実現したのは自民党政権に戻ってからであり、ITへの取組でも遅れをみせました。
ここで目を引くのが、広報予算に関する記述。2015年政府広報予算は83億円で、各省庁も独自の広報予算を持ち、数百億円規模になる点に着目して、いかに政府・与党がメディアとの関係を強化しているかを分析しています。
数百億円のスポンサーというのは大きな力を持つクライアントであり、メディアと政治との関わりは権力構造というだけでなく、ビジネスやマネーの観点からも見ておく必要があるでしょう。そしてその影響力は実に大きいのです。政治側はその力を意図的に使い、メディアは黙って使われています。
政治(自民党)は、メディアやネットに対し明確に戦略的な変化を見せています。国民側は、ネット民が団結してデモを起こし、それは成功とは言えなくても、政治との関わりに変化をもたらす兆しのようにも見えます。
ここで筆者は「大きく変化していないのがメディア」だといいます。同意します。というより、政権から緩いタマが投げられただけで萎縮してしまう状況は、緩やかな退化に見えます。これに対し筆者は、NewsPicksやSmartNewsのようなニュース配信アプリが「新たな変革者」と見る。期待しましょう。
本書は放送法に基づく政府関与について、米FCCのような独立行政委員会論や第三者機関である「BPO」の強化策についても言及しています。日本型の現制度と独立委員会制度を巡っては長い論争があり、ぼくもそれを担当した結果、官僚を辞めることになったので、話が長くなるからここでは抑えておきます。
ただ、その収めどころの知恵としてできたBPOをさらに強化することは、これまた日本型のいい知恵の出しどころです。政治との距離をどうとるか、ネットとの距離をどうとるか、次の宿題として考えるべきテーマでしょう。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年12月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。