無理を重ねた日銀は神風に助けられるのか

2016年12月31日 10:00

2016年12月19、20日に開催された日銀の金融政策決定会合の主な意見では、金融政策運営に関して次のようなコメントが紹介されていた。

「ポジティブなショックがあるとき、金利をゼロ%で固定すれば金融政策は自動増幅機能がある。2%を超えて物価が上がることを容認するオーバーシュート型コミットメントの意味は、物価が上がっていないときには人々に認識されないが、実際に上がっていくときには、認識されるようになる。9月に決定した政策の意味が次第に広く理解され、効果が強まると期待される。また、実際に10年物国債の金利をゼロに抑えるオペレーションが必要である。今が、2%の「物価安定の目標」を達成する好機である。」

これはひとりの政策委員のコメントではあるものの、この発言は日銀が今年、金融政策で右往左往したものの結果オーライといった結論を述べているかのように思われる。今回はやや辛口コメントになってしまうが、これまでの日銀の政策に批判を加えてみたい。

日銀が今年1月に決定したのが「マイナス金利付き量的・質的緩和」であった。昨年12月に「補完措置」によって国債の買入範囲を拡げ、国債買入増額を可能にしようとした。今年に入ってのリスクオフの動きに慌てて、追加緩和を講じることにした結果が、何故か下準備していた量を諦めて、金利に戻して、スイスなどの事例を参考にマイナス金利政策の決定となった。

これは日銀内部でも意外感もあったようである。しかし、このマイナス金利政策は急激な国債利回りの低下を招くなどしたことで、金融機関の運用に悪影響を与え、日銀のお膝元でもある金融機関からの批判が強まった。

この批判に対処すべく、検証とするには遅きに失した感もあるものの「総括的な検証」を前面に押し出して、マイナス金利政策の修正をそっと行った。それが9月に決定した長短金利操作付き量的・質的緩和であった。

今の日銀は意地でも緩和に対する前向きの姿勢を表面上は崩したくはない。本来ならマイナス金利政策そのものを止めるべきであり、結果として量が物価を上げることができなかった以上は、異常な国債買入も再考するなりするのが本筋であろう。しかし、それもできないことで生み出されたのが、長期金利の操作をさらに付け加えることとなった。なんてことはない長期金利をマイナスからプラスとし、イールドカーブをスティープ化させて、金融機関からの批判を少しでもかわすことが目的となった。ついでに国債の買い入れも減額出来る仕組みとした。

本来できないとした金融政策によるに長期金利のコントロールについては、特にマイナス金利政策で予想以上に効果を発揮したとの認識が元になったとみられ、これだけ日銀の国債市場での依存度が高いと、もしかすると可能かもしれないと考えたのではなかろうか。

もともとアベノミクスそのものは金融政策の効果というより、安倍首相や黒田総裁の金融市場に対してのアナウンスメント効果による円安や株高を招いたとの見方もできる。しかし、それで円安となって、消費増税の駆け込み需要等で一時的に物価が上がっても、日銀の買い入れる量が作用していない以上、原油価格の下落などによってあっさりと物価は前年比マイナスとなってしまった。

ところがそこにトランプラリーという神風が吹いた。これは2016年初のリスクオフの動きが英国のEU離脱でピークアウトしたところに、原油価格の上昇の動きも出ていたところに米大統領選挙でのトランプ氏の勝利がリスクオフの反動を起こすきっかけとなった。これは2012年11月のアベノミクスの登場のタイミングとも似通っている。

日本の国債市場はとりあえず非常に素直に日銀の買入の調節等を見ながらの金利形成をしており、トランプラリーをきっかけとした米長期金利の上昇を受けて、日米金利差が拡がっての円安の動きも出ている。ただし、トランプラリーによるドル高の影響もあるため、一概に日米金利差だけで円安となっているわけではない。

ということで最初の日銀の某政策委員のコメントに戻る。ここで解説されているのは日本の長期金利を抑えておけば、トランプラリーのような事が起きると円安を通じて、物価にも働きかけるとの認識となっている。こればいわば結果論であることは、今年1年の日銀の金融政策の変遷を追いかけるだけでもわかる。

日銀はたしかに2013年4月の量的・質的緩和でも長期金利を含めた金利低下を促すことも目的としていた。しかし、それよりもマネタリーベースを増やすことによる効果を期待していたはずである。それがいつの間にか量から金利にすり替えられ、それも短期金利から長期金利の操作に変えてきた。

長期金利を押さえ込めば、金利上昇圧力の強まりそうな材料が出てくる際には効果が倍増するとの認識であろうが、仮にこのまま物価も上がってきた際に、いつまでも長期金利を押さえ込むこともできないはずである。

消費者物価指数(除く生鮮)が2%をつけても安定的に推移するので続けるというのがオーバーシュート型コミットメントではあるが、そんな状況になったのであれば、長期金利をゼロ近辺に押さえ込むことは不可能となる。

日銀は無限に国債買入は可能なのでできるとのご意見もあるかもしれないが、そんな状況に追い込まれると財政ファイナンスとの認識がより強まる懸念がある。もちろん日銀は長期金利の操作目標を変えてくることもありうる。しかし、それは利上げとなってしまうが、それをいまの日銀が許すであろうか。ただし、利上げのようだが利上げではなく調整であるとして長期金利の目標値をそっと引き上げてくるやもしれない。

足元の物価は少し前の日銀の物価目標であった消費者物価の「総合」ではプラス0.5%となっている。いまの目標のコアCPIはマイナス0.4%とマイナスのままではあるが、このコア指数も2月あたりにはプラスに転じるとの予想となっている。ガソリンの値上がりも続くなど、米国の動向など次第では日本の物価も上昇に転じてくることが予想される。それは別に日銀が国債を大量に買ったためでもなく、長期金利を抑えた円安効果もないわけではないが、原油価格を含めた他の要因の影響が大きい。

物価が低迷している間は、日銀の抱えるリスクはあまり見えてこないが、いったん物価が上がりだし、それら応じた長期金利形成ができないとなれば、いずれ債券市場に貯まったマグマが吹き出すことも予想される。日銀と市場参加者が対峙するようなこともありうるか。来年はそんな場面を迎えることもあるのではないかと予感させる。

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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年12月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。

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