2020 Tokyoが放送に求めるもの

中村 伊知哉
テレビ(写真AC)

放送の未来はどうなる?(写真ACより:編集部)

ぼくは産学連携プロジェクトに打ち込む政策屋なんですが、たまには研究もしろよと叱られます。ぼくにも研究の場を与えてくれるありがたい機関の一つが民放連研究所。客員研究員を務めています。

2期4年にわたり放送の研究をしてきました。1期目は「スマートテレビのゆくえ」。通信放送融合からスマートテレビへと移行する放送の技術・サービス・産業を追いました。

日本は92年に初めて通信放送融合が政策論になったのですが、2006年の米IT業界主導の世界展開に乗り遅れ、その後のスマートテレビ勃興期には黒船来襲という騒ぎになりました。

が、インフラ面やメディアリテラシーという日本の特性を活かしたサービスが放送側から現れ、放送からITへの攻勢も見られるようになります。現在のHulu、Netflix、AbemaTV等の対応に至ります。

2期目は「IoT時代の放送を展望する」。1)ウェアラブル=インタフェースの進化、2)IoT=受信機の多様化、3)AI=放送の自律化、という一連の技術変革がテレビに与える影響を探りました。

1) ウェアラブルは、HMDやVRと放送コンテンツの結合、常時装着するディスプレイへの放映、時計などのデバイスから発せられる生体情報の放送利用、という点に注目。

2) IoTは、ドローンの利用、クルマやロボットなど向けのIoT放送、街中のカメラやセンサーからの情報の番組利用、ビッグデータの活用、という点に注目。

3) AIは、番組リコメンドや番組自動生成への期待。

そして、それらのテストベッドとして、デジタル特区CiPの可能性を考えました。電波特区によるIoT放送とか、スマートデバイス向けIPDCなどです。

第3期となる今期のテーマを「レガシー・テレビ:2020 Tokyoが放送に求めるもの」としました。スマートテレビと、IoTの実像を結ぶ2020年にテレビはどうするのか、それが未来に遺すものはあるのかの分析です。

2020に向けてのスマートテレビとして、まずはネット配信の本格化が「IP放送」やスマホ・ファーストをどこまで進めるかの検討です。

さらに、4K8Kパブリックビューイングとスマホ連動や、3D立体放送による五輪観戦の拡張を考えます。

IoTの進化では、ドローン中継がどんな現実性や可能性を見せてくれるか。ドローン五輪と呼ばれる活躍を見せられるかどうか。そして、ポケモンGoが示してくれたARの可能性をテレビが取り込めるか。

この検討は、五輪とメディアとの関わりの中で紐解いてみたいです。

まずは1936年、ベルリン。リーフェンシュタール「民族の祭典」とナチス・プロパガンダからでいいですかね。

36年ベルリンは、ラジオ世界中継の五輪でもあります。NHK河西アナによる前畑がんばれの連呼と鉱石ラジオの結合が示した未来。

40年幻の東京大会をはさんで、60年ローマはテレビ録画中継の開始。欧州では18カ国で生中継されたそうです。2012ロンドンでは220カ国に広がりました。

64年東京は、カラーテレビ、そして衛星による世界中継として歴史に刻まれています。

84年ロスの商業主義を結節点とし、96年アトランタはIBMやCNNを軸とするデジタル戦略が前面に出ました。マルチメディア実験がアメリカで盛んに行われたころです。

98年長野はネット普及期、2000年シドニーがデジタルカメラ全面導入。でもまだネット中継はなく、せいぜい文字ベースでの実況でした。

2012年ロンドンで全競技のネット生配信が実現。スマホとソーシャルが連動したスマート五輪でもありました。ネット五輪ないしスマート五輪の称号はロンドン、と言っていいでしょう。

2016年リオはどうだったでしょう。4K・8K五輪の称号は差し上げていいでしょう。そのほか何か新機軸の匂いがしましたか? ロンドンの延長、と総括してよいでしょうか。

そして2020東京。どんな場になるべきでしょうか。
IoT五輪、AI五輪、VR五輪、AR五輪、ドローン五輪、ロボット五輪。
それとも。

これを観察しようと思っています。ただし、まだ研究の構想段階。大幅に変わる可能性アリですが、やってみます。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年1月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。