慰安婦問題とトランプ大統領の奇妙な類似

池田 信夫

キャプチャ

「少女像」が釜山の日本総領事館前に設置されたことに抗議して、日本政府は駐韓日本大使・総領事を帰国させ、日韓スワップ協定の協議を中断した(写真は産経新聞)。これに対するネット上の反応は、圧倒的支持だ。

慰安婦問題がいつまでも風化しないのは、嘘つきや裏切り者を憎み続ける応報感情が強いからだ。これは集団を守る上で重要なしくみで、こういう(おそらく一部は遺伝的な)感情がトランプを当選させた原動力である。

アメリカとメキシコの関係は、日本と韓国に似ている。同じように「新大陸」の植民地として出発したが、一方は世界一の大国になったのに、他方は途上国だ。先進国と第三世界が3200kmもの長い国境でつながっているケースは他になく、その所得格差も5倍以上で、陸続きの国としては最大である。

テキサス州の全部とカリフォルニアなど5州の一部は、1848年にアメリカが戦争で奪うまでメキシコの領土だった。メキシコはアメリカが侵略した唯一の国であり、アメリカ人は忘れているが、メキシコ人は学校で教え込んでいる。アメリカの人口の13%はヒスパニックで、そのうち1000万人以上がメキシコからの不法移民だ。ヒスパニックの比率は、2040年には人口の25%を占めると予想されている。

日韓は陸続きではないが、韓国はかつて日本の領土だった。日韓併合は国際法上の条約だが、韓国の学校では「侵略」と教えている。在日韓国・朝鮮人の「特別永住者」は約50万人で日本語を話すが、心の底では日本に同化していない人が多い。

トランプが大統領に当選したのは、日本でいうと「在日韓国人は不法滞在だから出ていけ」という政策を掲げて国会議員になったようなものだ。日本では「在特会」のような差別意識はもう強くないが、アメリカでは「レイシズム」をめぐる紛争がいまだに多い。その原因は、公民権運動以来のポリコレが生んだ逆差別への白人の怒りだ。

もちろんトランプの差別発言や「メキシコの壁」などは何の解決にもならないが、今まで続いてきたポリコレのタブーを破ったことに意味がある。ヨーロッパの移民差別も同じで、各国のエリートはきらうが、大衆は支持する。その原因は、移民や少数民族を優遇するアンフェアな政府への怒りだ。それはいまだに嘘をついて被害者を装う韓国人への日本人の怒りに似ている。

トランプに比べると、今回の日本政府の制裁措置は穏健なものだ。日本はよくも悪くも異民族を同化させてしまうので、国内問題としては韓国人差別はもう深刻ではない。慰安婦問題は今や韓国の国内問題であり、突き放して反省させたほうがいい。