入国禁止措置でトランプの頭がおかしくなったと思う貴方へ

2017年01月31日 06:00

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<ABCから引用>

トランプが署名した大統領令による入国規制は「トンデモナイ」話なのか?

トランプがイラン、リビア、スーダン、シリア、イラク、ソマリア、イエメンの7か国について入国制限を実施することを発表したことで、全米で反対デモが巻き起こっており、米国メディアがそれらを取材した内容の丸写しニュースが日本でも流れています。

さて、今回はトランプが署名した大統領令が本当に「トンデモナイ」ものなのか、について話をしていきたいと思います。その背景と意図、そして今後の展開について筆者なりにまとめたものであり、日本国内で語られている他の情報とは少し変わった視点から情報が提供できれば幸いです。

元々トランプのイスラム教徒入国禁止は、予備選挙時にトランプと共和党の一部(コーク財団系)が本格的に衝突したきっかけでもあり、その後一時的にトランプのHPから掲載が消えていたものの、大統領選挙後にHP上に復活したトランプ政権にとっては肝いりの政策だと言えるでしょう。

入国制限対象国が少なすぎるのではないか?という批判も存在している

今回の入国制限国は7か国について、米国国務省はこれらの国々をテロ支援国家またはISISやアルカイーダなどのイスラム過激派が現在進行形で勢力を誇っているテロリスト・セーフ・ヘイブンとして名指ししています。

そして、2016年1月に施行されたテロリスト渡航禁止法によって上記の7か国に渡航または滞在歴がある人は米国のビザ免除プログラムが利用できず、ビザ申請をしなければならないという元々他国よりも一段高いハードルが設けられて警戒されていました。そのため、トランプ大統領の着手までの速度には目を見張るものがありますが、これらの優先度の高い国からの入国者に対する規制を見直し・強化するための90日間の一時的な入国禁止措置を実施することは十分に想定の範囲内の出来事だと言えます。

ちなみに、トランプ大統領が2017年の受入れ上限としている難民5万人はオバマの半分程度と言われていますが、それは2016年にオバマが難民受入れ件数を激増させたからです。ジョージ・W・ブッシュとオバマの2015年までの平均は約5万人程度なので特別におかしな数字ではありません。

大騒ぎしている人々もグリーンカード保有者が大統領令の対象外になることが発表されたことで一定の期間が経過すれば静かになることが予想されます。また、米国が要求する追加情報を対象国から得た場合、ほとんど全ての人が入国できる可能性が高いです。

ただし、オバマ政権は最近の僅か2年で約5万発の爆弾を落とし、誤爆などによって新たなテロリストを上記の対象国内(イラク、シリア、リビア、ソマリア、イエメン等)などに育ててしまっています。潜在的なテロリスト予備軍の増加によって対テロ戦争という意味では9.11時よりも場合によっては状況が悪化している可能性があります。

 

したがって、一部のメディアや有識者のように過去のテロの実績から今後のリスクを安易に想定することは誤りであると推測されます。

そのため、文言通りにテロ対策として考えるならば、上記のテロリスト・セーフ・ヘイブンの文脈からはアフガニスタン、レバノン、パキスタンなどの国も対象であり、トランプ政権が一時的な入国禁止阻止措置を更に拡大していくことも想定すべきです。

トランプの真の狙いは「シリアに地上兵力を派兵して安全地帯を作ること」ではないか?

しかし、従来の政策の延長線上の措置とは言えども、これらの入国制限措置を純粋なテロ対策の観点のみで考えるべきかについては疑問があります。特にシリア難民の恒久的な入国禁止措置には別の狙いもありそうです。

今回の措置で最も重要なポイントはシリア難民の無期限入国禁止だと言えるでしょう。そして、トランプ政権の狙いは「シリア難民の入国禁止」によって生じる国際情勢の変化だと推測されます。

トランプ大統領は以前から「シリア国内に安全地帯を設ける」旨を発表していますが、サウジアラビア国王との電話会談でも再び「安全地帯の設置」についての協力を求めています。

そして、今回の大統領令でシリア難民を受け入れないと宣言した結果、人道的な措置として「シリア国内の安全な場所で難民に該当する人々を保護する」ことを逆に大義名分として獲得できるわけです。

現在、シリアでは米国抜きの世界秩序の始まりを象徴するかのような出来事が起きてしまっています。

オバマ政権のシリア対応は象徴的な外交失政であり、予算をかけて空爆を継続して無関係の人々も含めて殺傷した上に、米国の地上兵力の不在は和平プロセスからの米国排除という結果を招いて国際的威信を著しく低下させました。

今回、トランプ政権はシリア難民の入国禁止をあえて実施することで、米軍及び同盟国はシリアに地上部隊を派兵して影響力を持つ地域を手にする国内外からの大義名分を得ることになります。そうすることで、シリアでの和平交渉におけるバーゲニングパワーを取り戻せるからです。

そのため、トランプ大統領はシリアへの地上兵力派兵のカードはまだ切っていませんが、国内の一部の有識者のように派兵の可能性を全否定することは早計でしょう。

実際、ティラーソン国務長官をトランプに推薦したロバート・ゲーツはコンドリーザ・ライスと一緒に連名で地上兵力を派遣してプーチンと交渉するべきだという公開書面をメディア上に掲載していたこともあります。

イスラム教徒の入国禁止だと騒がれている理由の一つは少数派キリスト教徒の保護優先だから

上記でも触れた通り、グリーンカード取得者は対象外ということになり、「イスラム教徒の入国禁止だ!」とは一概には言えない状況となっています。

ただし、この大統領令がイスラム教徒の入国禁止と揶揄される理由の一つには「少数派宗教で迫害されている人」(≒キリスト教徒)を優先して難民として入国を受け入れる可能性が付記されている点にあります。

トランプ大統領は、これらの対象となったイスラム教国内では少数派となっているキリスト教徒は極めて残酷な被害にあっていることも多く、これらの人々は宗教的迫害から逃れるために優先的に入国させるとしています。

大統領令の批判者の中にはこの内容が宗教的な差別に当たるとする見方があるようですが、これについては意見が分かれるところでしょう。 キリスト教徒の迫害に関するレポートは十分根拠があり、なおかつ同時にこれはキリスト教福音派などの共和党保守派の意向が働いたものと考えることが妥当かと思います。

大統領選挙の経過及び結果が政策の微妙な部分に反映されることも米国の政治を考察していく上で非常に興味深い点だと言えるでしょう。

イスラム国 テロリストが国家をつくる時
ロレッタ ナポリオーニ
文藝春秋
2015-01-07

本記事の内容は所属機関とは関係なく渡瀬個人の見識に基づくものです。取材依頼や講演依頼などはyuya.watase02@gmail.comまでお願いします。

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