パワポを捨ててストーリーを語れ!

荘司 雅彦
プレゼン 写真AC

プレゼンではストーリーを語ろう(写真ACより:編集部)

10年以上前になるでしょうか。米国のビジネス界では「パワポを捨ててストーリーを語れ」と言われるようになりました。
プレゼンや講演で、パワーポイントを使って論理的に説明してもあまり効果が上がらなかったことの反省から来ているようです。

人間が文字のない大昔、火の周りに座って耳を傾けていた「物語」に回帰せよというメッセージが含まれています。

米国のビジネス界で、脚本家の指導者であるロバート・マッキーが講演依頼で引っ張りだこになりました。
私も同書をSBI大学院大学の講座で使用したましたし、それ以外のストーリーテリングに関する書籍を片っ端から読みました。

しかし、ストーリーの構成とプレゼンや講演、はたまた最終弁論に応用する方法がいまだに明確になっていません。
頻繁に引用される、ドン・キャンベルによるストーリーの流れは次のようなものです。

日常(主人公は日常で生活しながらもどこか不満を感じている)→分離(ある出来事が起こって主人公が日常から分離される)→敗北(最初の敗北を喫する)→試練(訓練などによって欠点を克服した主人公が敵にいどむ)→勝利(試練を経て勝利を手にする)→帰還(成長した主人公が日常に帰る)

スターウォーズのルーク・スカイウォーカーの成長物語もこのような流れです。農夫の叔父夫婦の育てられたルークが帝国と戦い、ジェダイの騎士として成長する物語でしたよね。

しかし、これをプレゼンや講演でそのまま使うことは不可能です。今までの私は、「聴衆の頭脳ではなく心を揺さぶって感情移入させると」いう抽象的な説明しかできませんでした(拙著「人を動かす交渉術」平凡社)。

その後、あれこれ考えたり類書を読んだりした現時点での結論をご説明します。
「聴衆の頭脳ではなく心を揺さぶって感情移入させる」には、次の要素をプレゼンや講演に入れることが効果的だと考えます。

1 聴衆に共通する具体的事実は必須

「日本の子供の6人に1人が貧困にあえいでいます」という抽象的表現ではなく、「みなさんのお子さんやお孫さんにも学校の同級生がいますよね。みなさんが顔を知っている友達も何人かいるでしょう。そのクラスが42人だとすると、6人の同級生が満足な食事すらできない生活をしているのです」と、出来る限り聴衆がイメージし易い具体的な話に落とし込んでいくことです。

2 悲しい経験も遠慮せずに入れる

「交通事故死亡者数が〇〇人になっています」と言うより「ようやく歩きはじめた目に入れても痛くない孫が…後方不注意のトラックにひかれて…」と語った方が聴衆はグッときますし、「がん患者の延命率を◯%上げました」というより「みなさんの親や友達、知人でがんで亡くなった方がいるとおもいます。この薬さえ実用化されていれば今も笑顔でいられたのです」と語った方が、聴衆の心に響くはずです(もちろん嘘は論外です)。

3 弱みをさらけ出す

これは攻めのプレゼンを考えていると躊躇してしまいがちですが、パーフェクトな内容ほど嘘っぽいものはありません。「実は、本製品を開発するに当たっては7回も失敗し…仕様変更を余儀なくされました。開発をあきらめたことも何度もありました」と、人間的な弱みをさらけ出すと話の内容に「より真実味」が加わります。

プレゼンや講演の目的にもよりますが、上記の3要素の一つか二つでも入れることができれば、客観的・論理的な説明よりもはるかに「聴衆の心を揺さぶって感情移入させる」ことができるものと私は考えます。

まだ試行錯誤の最中ですので決定版と宣言する自信はまったくありません。もちろん、上記の要素以外にも感情移入させる方法はたくさんあると思います(偉人の言葉を引用したり)。

本稿が、プレゼンや講演を行うにあたって少しでもお役に立てれば幸いです。


編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年2月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。