「世界の警察」は合理的ではないが必要だ

2017年04月08日 13:53

今週からアゴラ経済塾「合理的に考える」が始まったが、毎日その教材が(不幸なことに)提供されている。Vlogでは北朝鮮を例にしたが、「北朝鮮と日本」を「シリアとアメリカ」に置き換えても同じだ。

シリアが毒ガスを使ったとき、アメリカが空爆すると被害が出るが、何もしないと死者はそれ以上増えない。つまりアメリカは事後的には譲歩することが合理的だが、シリアがそれを知っていると、いくらでも攻撃する。だから戦争を防ぐには、戦争を起こしたら必ず報復するという事前のコミットメントが必要だ。

この「時間非整合性」のパラドックスは昔から知られており、仇討ちはその解決手段だった。親が殺されたとき、子は自分が危険にさらされていなくても、仇を討たなければ「名」を汚す。これがコミットメントだが、悪循環になるので近代国家では禁じられ、警察が報復する(犯罪者は警察に報復できない)。

国際法には警察がないので、どこかの国が「世界の警察」の役割を果たす必要があり、悪循環を防ぐには制裁する国が圧倒的な軍事力をもっている必要がある。その役割を果たせる国は、今はアメリカしかない。

しかし他国から攻撃されたことのないアメリカでは、自国の若者の命を捨てる見返りに得るものがはっきりしないので、伝統的に孤立主義(不介入主義)が強い。これは合理的だが、結果としてはシリアや北朝鮮のような「無法者」が自由に行動できる。

このジレンマを解決する一つの手段は、国際機関で協調して行動する集団安全保障だが、国連はアメリカとロシアの利害が一致しないと機能しない。次善の手段が軍事同盟による集団的自衛権だが、これはガードマンのような契約なので、存在するだけでは機能しない。他国の軍事力にただ乗りして、戦争が起こったら自分だけ逃げることが合理的だからだ。

「集団的自衛権は保持するが行使しない」という1972年の閣議決定は、日本がアメリカの軍事力にただ乗りするもので、アメリカには不満だった。これは篠田英朗氏も指摘するように、平和憲法という「表の国体」が米軍基地という「裏の国体」に寄生する欺瞞的な構造で、いざとなったら機能するかどうかわからない。世界の警察が機能しない状態で困るのは、アメリカではなく日本である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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