ロシアの「宗教の自由」蹂躙を憂う

長谷川 良

ロシア最高裁は4月20日、キリスト教系宗教団体「エホバの証人」を過激派団体と認定し、その活動禁止の決定を下した。ロシア当局の今回の決定に対し、国際人権活動グループからは「モルモン教や他の新興プロテスタント系教会に対しても同様の処置を取るだろう」という懸念の声が聞かれる。

ロシア側の今回の処置は、2016年7月に発効されたヤロヴァヤ法(Yarovaya-Law)に基づく。一般的には「反テロ法」と呼ばれ、国民の会話や携帯電話などを当局がテロ対策という名目で盗聴できる法律だ。発起人となった統一ロシア党のイリナ・ヤロヴァヤ 氏の名前にちなみ、ヤロヴァヤ法と呼ばれる。同法は昨年6月7日、 プーチン大統領の署名を受け、同年7月から施行された。

ロシア最高裁は今回、「エホバの証人」を公共の秩序の脅威であり、家庭を破壊する過激なグループと規定した司法省の要請を承認したかたちだ。それを受け、「エホバの証人」本部とその395カ所の地方支部は閉鎖され、所有財産は押収される。当局の禁止処置を無視して活動を継続した場合、罰金刑に処され、最悪の場合、最高10年の刑罰を受ける。「エホバの証人」は世界に約800万人の信者を有する。

ロシア司法省は2007年以来、「エホバの証人」関連文書の公開を禁止している。その理由は、「エホバの証人」が自身の教えこそ唯一であり、その聖書解釈こそ正しいと主張しているからだという。サンクトペテルブルクにある「エホバの証人」本部が今年2月、家宅捜査を受けたばかりだ。

蛇足だが説明すると、どの宗教団体も自身の教義や教えを最高と信じている。「自分の教えは2番目にいい」と考えている信者はいないだろう。自身の教え、聖書解釈が唯一、正しい、と主張しているのは「エホバの証人」だけではない。世界最大のキリスト教会、ローマ・カトリック教会もしかりだ。その意味で、ロシア司法省の見解は弁明に過ぎない。

国際人権擁護グループ「人権ウォッチ」は21日、ロシア最高裁の決定を批判、「今回の決定は宗教・結社の自由尊重への著しい違犯だ。ロシア国内のエホバの証人10万人以上の信者の宗教活動を阻害させる」と指摘。「エホバの証人」側はロシアの決定を欧州人権裁判所に訴える意向を表明している。

ロシアでは2015年、特定の宗教団体に対し、外国からの送金の公開を義務づける法を施行している。団体は毎年、会計報告の提出を求められ、指導者メンバーに関する情報公開も求められるという。それを破った場合、刑罰に処される。

一方、プーチン大統領の加護を受けるロシア正教会は政府の対応を歓迎している。なぜならば、ロシア正教は外国からの経済支援を受けていないから恐れることはないからだ。他の宗教団体、例えば、イスラム教系やユダヤ教系は部分的に外国からの支援を受けている。

ロシアではここ数年、治安当局が外国にその本部を置く非政府機関(NGO)を“外国のスパイ”として徹底的に監視してきたが、その対象が宗教団体にまで拡大されてきたわけだ。欧米社会では、「結社の自由」、「宗教の自由」の蹂躙として批判の声が出ている。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。